サクセンダは糖尿病薬ではなくダイエット薬です

サクセンダはダイエット薬

サクセンダ
サクセンダ

サクセンダ(医薬品名:リラグルチド)は、ノボノルディスク社が開発した肥満症治療薬(ダイエット薬)であり、糖尿病治療薬ではありません1

脳のGLP-1受容体に作用して、食欲を抑制し、体重を減少させます1。世界各国で認可され、高度肥満症の方、もしくは肥満症でかつ肥満に関連する疾患がある方にダイエット目的に処方されています。

GLP-1とは?

GLP-1は、グルカゴン様ペプチド-1という小腸から分泌されるホルモンです。食後に血糖値が上がると、小腸のL細胞からGLP-1が分泌され、膵臓の受容体に作用してインスリン分泌を促すとともに、肝臓から糖を放出するグルカゴンの作用を抑えて血糖値を改善します。

GLP-1のもう一つの作用として、脳細胞のGLP-1受容体に作用し、満腹感を高めることで食欲を抑え、体重を減少させる作用があります1。そのため、「やせるホルモン」とも呼ばれています。

GLP-1受容体作動薬

GLP-1受容体作動薬は、GLP-1と似た構造を持つお薬で、GLP-1受容体にくっついてGLP-1と同じ働きをします。日本では糖尿病薬として10年以上前から認可されています。

サクセンダはGLP-1受容体作動薬ですが、ダイエット薬として世界各国で認可されている薬であり、糖尿病薬としては認可されていません

サクセンダが糖尿病薬として間違えられる原因として、以下が挙げられます。

日本では未承認

サクセンダは、BMI27以上で肥満関連疾患を持つ方やBMI30以上の方の肥満症治療薬としてアメリカを始め、EU27カ国、イギリス、オーストラリア、カナダ、イラン、イスラエル、ブラジル、韓国など、世界各国で認可されていますが、日本では未承認です1 2 3 11。そのため、薬剤自体がほとんど認知されていません。

糖尿病薬による「GLP-1ダイエット」

世界で使用されているGLP-1注射薬には、多くの種類がありますが、サクセンダ以外はすべて糖尿病薬です。

商品名成分名注射頻度対象疾患
サクセンダリラグルチド1日1回肥満
ビクトーザリラグルチド1日1回糖尿病
トルリシティデュラグルチド週1回糖尿病
ビデュリオン
バイエッタ
エキセナチド週1回糖尿病
リキスミアリキシセナチド1日1回糖尿病
タンゼウム
エペルザン
アルビグルチド週1回糖尿病
オゼンピックセマグルチド週1回糖尿病

サクセンダは、他のGLP-1注射薬よりも体重減少効果が高いことが報告されており4、2020年9月現在、世界で肥満治療薬として認可されているGLP-1受容体作動薬はサクセンダのみです。

「GLP-1ダイエット」と称して、糖尿病薬をダイエット目的で処方されているケースもあり、それが混乱を招く要因となっています。

また、糖尿病の薬の中には、GLP-1受容体作動薬以外にも、メトホルミンやSGLT-2阻害薬など、抗肥満作用を示す薬剤が多くあり、ダイエット薬として処方されているケースがあり、ダイエット目的の不適切な糖尿病薬使用を厳しく非難する声があります5

ビクトーザの存在

2010年から日本で糖尿病治療薬として認可されている「ビクトーザ」とダイエット薬の「サクセンダ」は、実は同一成分の薬剤です。ただし、糖尿病と肥満では用法・用量が異なり、ビクトーザは1.8mg、サクセンダは3.0mgが最大注射量となっています。

サクセンダの特徴

サクセンダの利点には以下のものがあります。

  • 体重減少効果がはっきりしている
  • 特別な努力を必要とせず痩せられる
  • 中毒性がない
  • 耐性が起こりにくい
  • 他の抗肥満薬と比較して安全性が高い

依存性や薬剤耐性がない

ダイエット薬のサノレックス(成分名:マジンドール)は、依存性の問題や、耐性ができて時間経過とともに体重減少効果が低下するなどの問題がありましたが6、サクセンダは、依存性がなく耐性もほとんど起こらないとされています。

心血管系のリスクの低減

サノレックスなどの中枢性食欲抑制薬は、心筋梗塞や脳卒中などのリスクを増加させる懸念が報告されていますが、サクセンダではありません。

糖尿病患者を対象とした試験では、リラグルチド(サクセンダの成分)は、心血管イベントリスクを13%低下させ、心血管死を22%低下させることが報告されています7

また、血圧や中性脂肪、コレステロール値の改善、糖尿病の発症リスクを低減させることが報告されています14 15

サクセンダの誤解

サクセンダのよくある誤解として、以下のものがあります。

「低血糖が起こって危険」という誤解

「糖尿病ではない人がサクセンダを使うと低血糖が起こって危険」という意見がありますが、サクセンダは糖尿病薬ではなく肥満症治療薬ですので、数多くの非糖尿病の肥満患者に用いられています。

GLP-1受容体作動薬は、血糖値が高い時にだけインスリン分泌作用や血糖抑制作用を示すため、低血糖を起こしにくい薬剤として認知されています。

糖尿病患者でスルホニル尿素薬とサクセンダの併用によって重度の低血糖を起こした例が報告されていますが9、サクセンダの非糖尿病患者における臨床試験では、プラセボ1.1%に対し、サクセンダ1.6%に低血糖症状が報告されている程度で、重篤な低血糖が起こった例は報告されていません8

低血糖のリスクについては患者に症状や対処法について説明する必要はありますが、重篤な低血糖症状が起こるリスクは非常に低い薬剤です。実際に当院でも低血糖症状が起こった患者さんは1名だけ(約0.4%)であり、重度なものではなく、リスクとしては低いと考えています。

「リバウンドがない」という誤解

「リバウンドがなく楽に痩せられる」と宣伝されていることがありますが、実際にはそんなことはありません。サクセンダの使用を中止すると食欲が戻るため、食欲のままに食べ続けると体重も戻ってしまいます。

非糖尿病の肥満患者を対象としたサクセンダの臨床試験では、56週間(約13ヶ月)の治療後にプラセボへ切り替えた参加者は、12週間で2.91%体重が増加したことが報告されています10

当院では、サクセンダの治療中に痩せやすい生活習慣(運動や食生活)を取り入れることを指導しています。

ちなみに「胃が小さくなる」と表現することがありますが、実際の胃のサイズはほぼ変わらないとされています(長期の食事制限による腸粘膜の萎縮=廃用萎縮の報告はあります)。しかし、長期に食事制限が続けば、食物刺激で分泌される胃酸が減り、満腹中枢も慣れていくため、少量の食事で満腹感が得られるようになります。

吐き気や下痢の副作用について

毎日新聞に”「糖尿病薬でダイエット」副作用などで相談相次ぐ”として、GLP-1受容体作動薬についての記事が掲載されました12

糖尿病治療薬がダイエット目的に処方されていることや、吐き気といった副作用に関する相談が国民生活センターに相次いで寄せられているという内容です。

吐き気、嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状はサクセンダで頻繁に起こる副作用であり、その中でも吐き気は39%の患者に起こることが報告されています13

吐き気は通常1~2週間以内に改善し、長くても2ヶ月以内には治まります。そして、ほとんどのケースでは治療を中止する必要はありません(上腹部痛などを伴い、他の副作用が疑われる場合は除く)。

サクセンダによるダイエット治療は、吐き気などの消化器症状が出ることが前提でプロトコールが組まれており、0.6mgの少量から注射を開始して、副作用に慣れてきたら1週間以上かけて少しずつ増量します。

新聞記事の内容は、主に医師の説明不足からくるものであると考えられますが、吐き気の副作用が出たからといってすぐに不安にならず、医師に相談し、医師の管理、指導の下に使用してください。

「0.6mgでやせる」という誤解

サクセンダは吐き気などの副作用が起こりやすいため、初期用量を0.6mgから開始します。確かに、0.6mgでも食欲が抑えられ痩せる方もいますが、多くはありません。

「サクセンダが効かないので、用量を上げたいと医師に相談したところ、0.6mgで痩せるはずだと言われてしまいました。」という患者さんも何人か来院されましたが、サクセンダの正しいプロトコールは、1週間以上の間隔を空けて0.6㎎から最大3.0mgまで増やすようになっています。

しっかりとしたペースで体重が落ち続けている場合や、副作用の症状がある場合は医師に相談して無理に増量する必要はありませんが、初期用量だけで痩せる効果は高くありません。

効果的だが魔法の薬ではない

サクセンダの肥満者を対象にした試験では、60%の患者が5%以上体重が減り、33%の患者が10%以上体重が減り、14%の患者が15%以上体重が減っています14

当院で1.8mg/日以上注射をしている方の中で、全く効果が出なかった(1キロ以上の体重減少がない)方を調べたところ6名だけであり、全体の2%と少数でした。データを全てまとめられていませんが、多くの方で5%以上の体重減少を認めています。

確かに効果的な治療であり、食事や運動などをせずとも痩せられるケースもありますが、決して魔法の薬ではなく、原則は食事療法と運動療法を組み合わせて行う必要があります。

「注射で簡単ダイエット」「運動不要」など夢のような効果を謳う広告は沢山ありますが、前述したとおり、治療をやめれば食欲は元に戻るため、痩せやすい生活習慣を維持することが大切です。

私見

肥満は、糖尿病、高血圧、高脂血症、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、脂肪肝、痛風(高尿酸血症)、月経異常、睡眠時無呼吸症候群、膝や股関節の整形外科的疾患など、様々な疾患を引きおこす可能性があります。

しかし、過去の抗肥満薬には、向精神作用があり依存性や中毒性の問題があるものや、脳梗塞や心筋梗塞のリスクを上げるものなどがありました。

サクセンダは、日本では同一成分のビクトーザ(リラグルチド)が糖尿病治療薬として10年の実績があり、重篤な副作用はゼロではないものの非常に低く、多くの内科医や糖尿病専門医がその安全性について認識しています。

肥満者や糖尿病の方を対象とした試験では、依存性がなく、中性脂肪やコレステロール値改善、糖尿病の発症抑制、心血管系リスクの低減効果などが報告されており、過去の抗肥満薬と比較して使いやすいことが、世界中でサクセンダの処方数が伸びている理由です。

日本では未承認薬で、肥満者への処方も適応外で自費の薬剤です。医師の裁量で治療を行うことは認められていますが、リスク説明、副作用管理を行い、患者の希望と同意が得られた上でのことで、安易な処方を避ける必要があることは確かです。

肥満で効果的な運動ができず、食事制限にも大きなストレスを感じて減量できない方もいます。そのような時、サクセンダで体重を減少させコントロールすると、食事制限も無理なくできるようになり、体重が減って運動量も増やせるという好循環が生まれます。

脂肪吸引での死亡事故、極端な食事制限や激しい運動を伴う無理なダイエットでの健康障害なども問題になっている現状がある中で、医師の管理・指導のもとにサクセンダを使用することは、効果的な治療法の一つであると考えています。

もちろん、薬に頼らずに体重管理ができるようになるのが目標であることは言うまでもありません。

あわせて読みたい

執筆 医師:岩橋 陽介

参考文献・サイト

  1. Novo Nordisk Inc. “Saxenda liraglutide injection 3mg” https://www.saxenda.com/
  2. ノボノルディスクファーマ株式会社 “Saxendaについて肥満症を適応として欧州で承認取得” https://www.novonordisk.co.jp/content/dam/Japan/AFFILIATE/www-novonordisk-co-jp/home/News/PR_15_07.pdf アクセス 2020.09.18
  3. ellaslist. “Weight Loss Drug Injection Approved in Australia” https://ellaslist.com.au/articles/weight-loss-drug-injection-approved-in-australia アクセス 2020.09.18
  4. Madsbad S. (2015) “Review of head-to-head comparisons of glucagon-like peptide-1 receptor agonists.” Diabetes Obes Metab. 2016 Apr;18(4):317-32. doi: 10.1111/dom.12596. Epub 2015 Dec 29. PMID: 26511102
  5. 日医オンライン “自由診療における糖尿病治療薬の不適切使用に対する見解示す” 令和2年(2020年)7月5日「日医君」だより http://www.med.or.jp/nichiionline/article/009430.html アクセス 2020.09.18
  6. 富士フイルム富山化学株式会社 “サノレックス錠0.5mg” https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1190008F1020_4_02 2019/12/28アクセス
  7. Marso SP, (2016) “Liraglutide and Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes.” N Engl J Med. 2016 Jul 28;375(4):311-22. doi: 10.1056/NEJMoa1603827. Epub 2016 Jun 13. PMID: 27295427
  8. FDA. “SAXENDA (liraglutide injection)” https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2014/206321Orig1s000lbl.pdf
  9. Melanie J Davies, (2015) “Efficacy of Liraglutide for Weight Loss Among Patients With Type 2 Diabetes: The SCALE Diabetes Randomized Clinical Trial” JAMA. 2015 Aug 18;314(7):687-99. doi: 10.1001/jama.2015.9676.
  10. NICE. “Obese, overweight with risk factors: liraglutide (Saxenda)” Evidence summary Published date: June 2017 https://www.nice.org.uk/advice/es14/chapter/Key-points
  11. Lee Hye-seon. “Saxenda lands in Korea as obesity therapy” http://www.koreabiomed.com/news/articleView.html?idxno=928 アクセス 2020.09.18
  12. 毎日新聞 “「糖尿病薬でダイエット」 副作用などで相談相次ぐ オンライン診療で処方 国民生活センター“ https://mainichi.jp/articles/20200915/k00/00m/040/007000c アクセス 2020.09.18
  13. Novo Nordisk Inc. “Saxenda – Safty” https://www.saxendapro.com/safety/gastrointestinal-side-effects.html
  14. Pi-Sunyer X, (2015) “A Randomized, Controlled Trial of 3.0 mg of Liraglutide in Weight Management.” N Engl J Med. 2015 Jul 2;373(1):11-22. doi: 10.1056/NEJMoa1411892. PMID: 26132939
  15. Carel W le Roux, (2017) “3 years of liraglutide versus placebo for type 2 diabetes risk reduction and weight management in individuals with prediabetes: a randomised, double-blind trial.” Lancet. 2017 Apr 8;389(10077):1399-1409. doi: 10.1016/S0140-6736(17)30069-7. Epub 2017 Feb 23. PMID: 28237263

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