ニキビと洗顔の科学:皮膚科医が明かす効果的なスキンケア

「ニキビは洗顔で治る!?」皮膚科医が解説する洗顔の真実 | 肌のクリニック高円寺院・麹町院

思春期ニキビから大人ニキビまで、多くの人が「ニキビは洗顔で良くなる」と信じていますが、この常識は本当に科学的に正しいのでしょうか?本記事では、皮膚科医の立場からニキビと洗顔の関係について最新の研究と臨床知見をもとに解説し、効果的なスキンケア方法をご紹介します。

目次

ニキビと洗顔の関係:科学的真実

「洗顔でニキビが治る」は本当か?

多くの洗顔料のパッケージには「(洗浄により)ニキビ、アセモを防ぐ」という表示があります。これは薬事法で認められた表現ですが、実は強固な科学的根拠に基づいているわけではありません。

オックスフォード大学のシステマティックレビューでは、11の論文を分析した結果、洗顔の有効性を示す研究はあるものの、以下の理由から洗顔でニキビが改善するという根拠は、信頼性が低いと結論づけています[1]

  • サンプルサイズが小さい
  • 対照群(洗顔しないグループ)がない
  • 主観的評価に頼っており統計分析が不十分
  • ランダム化が不十分

ニューヨーク大学医学部の研究者らが671人を対象とした14の前向き研究を分析したレビューでも、洗顔・クレンジングとニキビ改善の関連を示す明確な臨床的エビデンスは不足していると報告されています[2]

洗いすぎのリスク:ニキビが悪化する理由

実は過度な洗顔はニキビを悪化させる可能性があります。

1. 角質バリアの破壊

洗顔料やクレンジングに含まれる界面活性剤は、皮脂などの汚れを落とす一方で、角層の細胞間に入り込み、必要な脂質成分や保湿成分を溶かして流出させます。また、ケラチンタンパク質に結合して角層のバリア機能を低下させることが報告されています[4][5]。これは思春期ニキビだけでなく大人ニキビにも悪影響を与えます。

2. 乾燥と皮脂分泌の悪循環

角質バリアが破壊されると水分保持能力が低下し、乾燥を引き起こします。乾燥した肌は代償的に皮脂を過剰分泌し、毛穴詰まりを促進するという悪循環が生じます。この現象は特に中学生・高校生の思春期ニキビで顕著に見られます。

3. 肌の常在菌バランスの崩れ

健康な肌には1000種類以上の細菌が存在し、肌の健康維持に役立っています[14]。殺菌作用のある洗浄剤の頻繁な使用は、これらの菌のバランスを崩し、ニキビができやすい肌環境を作り出す可能性があります。表皮ブドウ球菌などの善玉菌が減ると、肌はアルカリ性に傾き、炎症を悪化させる黄色ブドウ球菌などが増殖しやすくなります。

4. 皮膚刺激の増加

1日に何回も洗顔することで皮膚刺激を引き起こす可能性があります。特にトレチノインやイソトレチノインなどのニキビ治療薬使用中は、洗顔により痒みや赤みが増すことが報告されています[9][10]

ニキビ=不衛生という誤解の影響

「ニキビは不潔の象徴」という医学的根拠のない誤解は、ニキビに悩む人々に深刻な心理的影響を与えています。

思春期ニキビに悩む若者の写真
  • 英国の研究では、ニキビのある10代の若者は、ないグループより2倍の確率で感情的な問題を抱えています[12]
  • ニュージーランドの調査では、ニキビの重症度が高い人ほど恥ずかしさを感じ、社会活動への参加が減少する傾向が見られました[13]

この誤解は、極端な清潔志向になって頻回に洗顔をしたり、恥ずかしさからニキビを潰したりと、かえって症状を悪化させる行動につながることがあります。

2001年のメルボルン大学医学部の調査では、医学生でさえ、25%が「肌が不衛生」なことがニキビを悪化させる要因だという誤った認識を持っていたことが報告されています[11]

「ニキビには洗顔」神話を振り返る
長年、私たちは「ニキビには洗顔が効果的」という広告メッセージに囲まれてきました。薬事法の認可のもと、洗顔料メーカーは「ニキビ予防」を謳い続け、その結果、多くの人が「ニキビ=不潔」という誤った認識を持つようになりました。
皮膚科医として言えるのは、ニキビは不衛生が原因ではなく複雑な生理的要因によるもので、適切な頻度の優しい洗顔を取り入れることが、科学に基づいた効果的なアプローチであると言えます。

皮膚科医が教える科学に基づく効果的な洗顔法

ニキビができにくい適切な洗顔頻度

肌質や状態によって最適な洗顔頻度は異なります。

皮脂が多い方(思春期ニキビに多い)

  • 洗顔料を使った洗顔は1日2回まで[8]
  • 日中に顔がベタついた場合は、洗顔料を使わず水かぬるま湯で簡単に洗い流すのみにする
  • 洗浄力の強すぎる製品での何回も洗顔は避ける

皮脂が少ない方・乾燥肌(大人ニキビに多い)

  • 洗顔料やクレンジングを使った洗顔は1日1回(夜のみ)で十分
  • 朝はぬるま湯だけで洗顔する
  • 過剰な洗顔は避け、洗いすぎないことが重要

特に乾燥が強い場合

  • 水またはぬるま湯だけでの洗顔を選択する日を設け、洗顔料の使用頻度を週に数回に抑える
  • これは特に大人ニキビの方に効果的な方法です

ニキビに効く肌に優しい洗顔料の選び方

実はニキビに効くという洗顔料は医学的には存在しません。そのため、ニキビを悪化させない洗顔料選びが重要になります。

低刺激な洗浄成分

通常の石けんはアルカリ性が強く、強力な洗浄力と脱脂力があります。以下のような低刺激の洗浄成分を選びましょう。

  • アミノ酸系界面活性剤:通常の石けんと比較して洗顔後も肌の天然保湿因子(NMF)を保持し、低刺激であると報告されています[16]
  • タウリン系界面活性剤(ココイルメチルタウリンNa):アミノ酸系よりもさらに肌に優しく、皮脂汚れを落とすのに十分な洗浄力を持っています[18]

クレンジングの選び方

「ニキビ肌にはオイルフリーのクレンジング」と言われることが多いですが、適切な成分設計でしっかりと洗い流せるものであれば、オイルクレンジングもニキビに悪影響を与えることはありません。むしろ、メイクと良く馴染み短時間で落とせるオイルクレンジングのほうが、長時間肌を擦る必要がなく、肌への負担が少ない場合もあります[6]

ニキビを悪化させない正しい洗顔テクニック

  • 泡で優しく洗い、ゴシゴシこすらないこと
  • すすぎは丁寧に、できれば10回以上行うこと
  • 摩擦はくすみや色素沈着の原因になる可能性があるため注意

皮膚科医まとめ:ニキビと洗顔の真実

  1. ニキビと不衛生は無関係思春期ニキビも大人ニキビも不潔が原因ではなく、主に皮脂分泌、角化異常、皮脂腺異常、アクネ菌の増殖、炎症、自己免疫などの複雑な要因によるものです
  2. 洗顔の科学的根拠は限定的:洗顔でニキビを改善するという十分な科学的根拠は乏しいものの、適切な洗顔は肌のコンディションを整えるために重要です
  3. 過度な洗顔でニキビが悪化する可能性1日に何回も洗うなど洗いすぎは角質バリアを破壊し、乾燥、皮脂過剰分泌、常在菌バランスの乱れなどを引き起こし、ニキビができやすい肌環境を作ります
  4. 肌質に合わせた洗顔頻度:皮脂量や肌の状態に応じて、中学生・高校生の思春期ニキビでは1日2回まで、大人ニキビでは1日1回(夜のみ)が適切です
  5. ニキビに効く洗顔料選び:タウリン系やアミノ酸系など、肌に優しい洗浄成分を選択することが重要です

科学的知見に基づいた適切な洗顔習慣は、ニキビケアの一部として重要ですが、それだけでニキビが治るわけではありません。「ニキビができない洗顔」を探すよりも、ニキビは不潔からくるものではないという正しい認識を持ち、過度な洗浄を避け、肌のバリア機能を守ることが健やかな肌への近道です。

参考文献・サイト一覧
  1. Parker Magin, (2005) “A systematic review of the evidence for ‘myths and misconceptions’ in acne management: diet, face-washing and sunlight” Family Practice, Volume 22, Issue 1, February 2005, Pages 62–70, https://doi.org/10.1093/fampra/cmh715
  2. Stringer T, (2018) “Clinical evidence for washing and cleansers in acne vulgaris: a systematic review.” J Dermatolog Treat. 2018 Nov;29(7):688-693. doi: 10.1080/09546634.2018.1442552. Epub 2018 Feb 25. PMID: 29460655
  3. Lawrence F. Eichenfield, (2013) “Evidence-Based Recommendations for the Diagnosis and Treatment of Pediatric Acne” Pediatrics May 2013, 131 (Supplement 3) S163-S186; DOI: https://doi.org/10.1542/peds.2013-0490B
  4. Imokawa, (1981) “Cumulative effect of surfactants on cutaneous horny layers: Lysosomal activity of human keratin layers in vivo” Contact Dermatitis. 1981 Mar;7(2):65-71. DOI: 10.1111/j.1600-0536.1981.tb03980.x PMID: 6263545
  5. KA Walters, (1988) “Non‐ionic surfactant effects on hairless mouse skin permeability characteristics” J Pharm Pharmacol. 1988 Aug;40(8):525-9. DOI: 10.1111/j.2042-7158.1988.tb05295.x PMID: 2907003
  6. Washing away at acne.” Br Med J. 1976 Oct 9; 2(6040): 834–835. PMID: 136284
  7. Mills OH, (1975) “Acne detergicans.” Arch Dermatol. 1975 Jan;111(1):65-8. Arch Dermatol. 1975;111(1):65-68. doi:10.1001/archderm.1975.01630130067007
  8. Draelos ZD. (2006) “The effect of a daily facial cleanser for normal to oily skin on the skin barrier of subjects with acne.” Cutis. 2006 Jul;78(1 Suppl):34-40. PMID: 16910029
  9. Dunlap FE, (1998) “Adapalene 0.1% gel has low skin irritation potential even when applied immediately after washing.” Br J Dermatol. 1998 Oct;139 Suppl 52:23-5. DOI: 10.1046/j.1365-2133.1998.1390s2023.x PMID: 9990417
  10. Swinyer LJ, (1980) “Topical agents alone in acne. A blind assessment study.” JAMA. 1980 Apr 25;243(16):1640-3. PMID: 6444678
  11. Green J, (2001) “Perceptions of acne vulgaris in final year medical student written examination answers.” Australas J Dermatol. 2001 May;42(2):98-101. DOI: 10.1046/j.1440-0960.2001.00489.x PMID: 11309030
  12. Smithard A, (2001) “Acne prevalence, knowledge about acne and psychological morbidity in mid-adolescence: a community-based study.” Br J Dermatol. 2001 Aug;145(2):274-9. DOI: 10.1046/j.1365-2133.2001.04346.x PMID: 11531791
  13. Pearl A, (1998) “The impact of acne: a study of adolescents’ attitudes, perception and knowledge.” N Z Med J. 1998 Jul 24;111(1070):269-71. PMID: 9734528
  14. Elizabeth A. Grice, Heidi H. Kong, (2009). “Topographical and Temporal Diversity of the Human Skin Microbiome.” Science. 324 (5931): 1190-1192. doi:10.1126/science.1171700. PMC 2805064. PMID 19478181
  15. Stringer T, Nagler A, (2018). “Clinical evidence for washing and cleansers in acne vulgaris: a systematic review.” J Dermatolog Treat. 2018 Nov;29(7):688-693. doi: 10.1080/09546634.2018.1442552. Epub 2018 Feb 25. DOI: 10.1080/09546634.2018.1442552 PMID: 29460655
  16. 押村英子 (2012). “ヒトと地球にやさしく洗う-低刺激・天然系洗浄用界面活性剤の開発と応用-“ J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn. 46(3): 183-187.
  17. Washing away at acne.” Br Med J. 1976 Oct 9; 2(6040): 834–835. PMID: 136284
  18. 宮澤 清,田村 宇平,富田 健一 「頭皮・頭髪用洗浄剤(シャンプー)としてのN-アシルN-メチルタウリン(AMT)の開発と工業化」日本油化学会 1990 年 39 巻 11 号 p. 925-930
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記事の著者

岩橋 陽介のアバター 岩橋 陽介 肌のクリニック 院長

皮膚科医/美容皮膚科医/日本内科学会認定医/日本抗加齢医学会専門医/化粧品成分上級スペシャリスト
自身も重症ニキビに悩んだ経験から、2000年初頭に日本でいち早くイソトレチノインとホルモン療法を組み合わせたニキビ専門外来を開設。以来、20年に渡る美容皮膚科の臨床経験と2万人を超える難治性・重症ニキビ患者の治療実績を持つ。専門的アプローチにより、難治性ニキビ・ニキビ跡の治療に取り組んでいる。

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