レチノールとトレチノインの違い・肌への効果

レチノール(ビタミンA)

レチノールと言うと聞き慣れない方も多いかもしれませんが、レチノールとはビタミンAのことです。

ビタミンAは広義にはレチノイド(ビタミンA類縁物)と同様に使用されることもあり、レチノール(C20H30O)だけではなく、レチナール(C20H28O)、レチノイン酸(C20H28O2)を含みます。

レチノールが、細胞の分化や増殖に関わっていることは古くから知られており、お肌に塗ると、新しい細胞が生まれて、お肌を若返らせる効果があります。

2017年に医薬部外品成分としてのレチノールは、厚生労働省からシワ改善効果があると認めらました。レチノールに先立って、2016年にニールワンという化粧品成分がシワ改善に有効であるという承認を得ており、 各社がシワに効く商品の開発に力を入れています。

トレチノイン(レチノイン酸)

トレチノインとは、ビタミンAの誘導体で生理活性の主役物質です。レチノイン酸(C20H28O2)の全トランス型で、All-Trans-Retinoic Acidの頭文字を取って、ATRA(アトラ)とも呼ばれています。そのため、トレチノイン≒レチノイン酸と考えていただいて構いません。

トレチノインは、皮膚科では古くから、シワ、ニキビ、シミ、毛穴の治療薬として用いられています。

レチノールとトレチノインの違い

同じレチノイドであるレチノールとトレチノインですが、その違いは何なのでしょうか?下記の表に簡単にまとめました。

 レチノール
(ビタミンA)
トレチノイン
(レチノイン酸)
分類医薬部外品
/化粧品
医薬品
生理活性150~100
肌への効果
副作用
安定性悪い悪い

分類と生理活性

レチノールの生理活性の強さを1とすると、トレチノインはその50倍から100倍の強さがあるとされています (2)。

トレチノインは、その生理活性作用の強さから、化粧品や医薬部外品への配合は認められていません。それに対して、作用の弱いレチノールや、レチノールにパルミン酸を結合させたパルミチン酸レチノールは、化粧品や医薬部外品への配合が認められています。

肌への効果

レチノールは体内でトレチノインへ変換されて効果を発揮することが報告されています (3)。トレチノインは、レチノイド(ビタミンA類)の体内での生理活性の主役であるため、レチノールと比較して肌への効果は大きくなります。

レチノイド類は細胞を増殖させる作用がありますが、1.6倍の表皮肥厚を起こすのに必要なトレチノインの濃度は0.025%、1.5倍の表皮肥厚を起こすのに必要なレチノールの濃度は1.6%であり、60倍以上の差があります (1)。

つまり、レチノールはトレチノインの前の段階の物質であり、肌への効果はトレチノインと比較すると小さなものになります。

副作用

レチノイドの副作用は、「レチノイド反応」として有名ですが、 塗った部位のお肌に熱感、赤み、落屑(らくせつ=皮膚が剥がれること)が起こります。

レチノイド反応は、トレチノインでもレチノールでも両方起こりますが、作用の弱いレチノールのほうが軽度です。

レチノイドは、濃度が高くなるほど有害作用が強く出ます (4)。当院でも治療で0.05%と0.1%のトレチノインを扱っていますが、濃度が高い製剤のほうが赤みや落屑が起こりやすいため、低濃度から処方しています。

また、トレチノインは光老化からの保護や改善作用が報告されていますが (5)、レチノールも含めてレチノイド全てが、光の感受性を高めるため、使用中には紫外線の有害作用が出やすくなるため、十分に対策する必要があります。

安定性

レチノール、トレチノインとも、安定性については非常に悪く、空気や光によって容易に失活してしまいます。 そのため、当院では、調剤後のトレチノインの使用期限を冷蔵保存で2ヶ月間としています。

市販のものでは、酸素や光に極力触れないようなエアレス容器を採用したり、医薬品では、solid lipid nanoparticles (固体脂質ナノ粒子、脂質と界面活性剤によって粒子の内側にトレチノインを内包し界面活性剤で安定化させて分散したもの)や、リポソーム化によって安定化させる研究がされています (5, 6)。

トレチノインによる治療

レチノールとトレチノインの違いが分かると、美容医療の現場でトレチノインが選択される理由がわかると思います。

シワ

トレチノインは、皮ふの細胞の新生を促すとともに、真皮の線維芽細胞を刺激して、コラーゲンの産生を促進します。

90年代半ばにFDAからシワ改善薬として認可を受けており、目尻などの小じわ改善に広く利用されています。また、その後トレチノイン0.02%クリームは、FDAから光老化治療薬として認可されました (5)。

毛穴

トレチノインは、角質のターンオーバーを促進して、古い角質を剥がれやすくし、毛穴の詰まりにくくする作用があります。そのため、ダークスポットと呼ばれる毛穴の黒ずみに効果的です。

また、真皮のコラーゲン生成を促すため、たるみ毛穴にも効果的です。

当院では患者さんの状態によって、鼻の毛穴や黒ずみ治療に、2ヶ月ほどトレチノイン・ハイドロキノン療法を行い、その後レーザー治療を行っています。

ニキビ

トレチノインは、前述の毛穴を詰まりにくくする作用や、炎症を鎮める作用、皮脂の分泌を抑制する効果もあるため、ニキビをできにくくします (10)。

海外では古くからクリームや軟膏がニキビ治療に用いられています。また、アメリカでは、2018年8月にトレチノインが0.05%配合されたALTRENO  lotion(オルトレノローション)という化粧水タイプの薬が、FDAからニキビ治療目的で認可されています (7)。

二の腕のぶつぶつ(毛孔性苔癬・毛孔性角化症)にも治療として使用されています。

ニキビ跡

トレチノインは、そのピーリング作用を利用して、局所的なニキビ跡の色素沈着や赤みに対しても用いられます。

クレーターは、軽度のものであれば、トレチノインによるターンオーバー促進作用とコラーゲン増生作用によって、目立たなくなる可能性はあります。しかし、実際の臨床現場では、クレーター治療の第一選択薬ではなく、効果も大きくありません。クレーターは真皮にある瘢痕組織が原因であり、トレチノインにはそれを破壊するほどの効力がないからです。

シミ治療

トレチノインは、細胞のターンオーバーを促し、表皮のメラニンを排出させます。美白剤のハイドロキノンと組み合わせたシミ治療は、東大の吉村先生が研究され国内で広く普及しました。

136人のアジア人を対象とし、トレチノインとハイドロキノンを3ヶ月以上使用した試験で、老人性色素斑(加齢によるシミ)や炎症後色素沈着の改善を認めています (8)。

また、トレチノイン0.2~0.4%とハイドロキノン5%を併用した試験で、乳首と乳輪の黒ずみを改善させたと報告されています (9)。

今では当たり前のようにされているトレチノインとハイドロキノンを使ったシミ治療ですが、当時の功績があったからこそです。

当院でもシミ治療にトレチノインを用いておりますが、よりしっかりと治療効果が現れるレーザーの導入によって、現在は補助的な治療となっています。

黒ずみの治療では、現在でもトレチノイン・ハイドロキノン療法をメインで行うケースもあります。

レチノール化粧品のシワ改善作用

トレチノインの作用よりは弱いものの、レチノールにもシワ改善作用があります。

0.04%レチノールを12週間使用した対照臨床試験では、シワの改善をもたらしたことが報告されています (11)。

資生堂が昨年発表した研究でも、レチノール配合の化粧品で、8週間で首のしわが改善したと報告されています (12)。

純粋レチノールとレチノールの違い

「純粋レチノール」という言葉が散見されますが、純粋レチノールはレチノールと全く同じもので、言い回しを変えているだけです。

資生堂の公式サイトでそのことを明記しているものの、消費者に誤解を招く表現です。資生堂は、トラネキサム酸を「m-トラネキサム酸」と宣伝するなど、巧みな広告戦略が伺えます。

レチノール化粧品の選び方

前述したとおり、レチノールは光や空気に対して非常に不安定な成分です。そのため、空気に触れない容器を採用しているメーカーのものをおすすめします。

レチノールの長期使用

レチノールやトレチノインは、細胞分裂を早めてテロメアを短縮させ、肌老化を招くのではないかと懸念される方がおられますが、それを裏付ける医学的根拠は現在のところありません。

トレチノインを4年間長期使用し、組織学的な肌の紫外線ダメージからの回復を調べた試験では、光老化の改善が認められています (13)。レチノールはトレチノインよりもはるかに作用は弱く、局所刺激や紫外線に気を付けていれば、長く使用しても安全性は高いと考えられています。

トレチノインでは、70代や80代の患者さんのお肌も若返りますし、10年以上使用している患者さんもおられます。しかし、例えば、10年間使用した方の10年後の肌を組織学的に調査した研究報告はないため、さらなる長期使用の安全性や皮膚老化に対する作用については、今後の研究を待つ必要があります。

※引用は自由ですが、記事へのリンクと引用先は最低限お願いします。

執筆 医師:岩橋 陽介

参考文献・サイト

  1. Kang S, (1995) “Application of retinol to human skin in vivo induces epidermal hyperplasia and cellular retinoid binding proteins characteristic of retinoic acid but without measurable retinoic acid levels or irritation.” J Invest Dermatol. 1995 Oct;105(4):549-56. PMID: 7561157
  2. 東京大学美容医学への扉 “トレチノイン療法” https://www.cosmetic-medicine.jp/tre-hq/ 2019.04.21 アクセス
  3. Kurlandsky SB, (1994) “Biological activity of all-trans retinol requires metabolic conversion to all-trans retinoic acid and is mediated through activation of nuclear retinoid receptors in human keratinocytes.” J Biol Chem. 1994 Dec 30;269(52):32821-7. PMID: 7806506
  4. Griffiths CE, (1995) “Two concentrations of topical tretinoin (retinoic acid) cause similar improvement of photoaging but different degrees of irritation. A double-blind, vehicle-controlled comparison of 0.1% and 0.025% tretinoin creams.” Arch Dermatol. 1995 Sep;131(9):1037-44. PMID: 7544967
  5. Siddharth Mukherjee, (2006) “Retinoids in the treatment of skin aging: an overview of clinical efficacy and safety” Clin Interv Aging. 2006 Dec; 1(4): 327–348. PMID: 18046911
  6. Müller RH, (2002) “Solid lipid nanoparticles (SLN) and nanostructured lipid carriers (NLC) in cosmetic and dermatological preparations.” Adv Drug Deliv Rev. 2002 Nov 1;54 Suppl 1:S131-55. PMID: 12460720
  7. FDA. “ALTRENO™ (tretinoin) lotion” https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2018/209353s000lbl.pdf 2018.10.24 アクセス
  8. Yoshimura K, (2000) “Experience with a strong bleaching treatment for skin hyperpigmentation in Orientals.” Plast Reconstr Surg. 2000 Mar;105(3):1097-108; discussion 1109-10. PMID: 10724272
  9. Yoshimura K, (2002) “Cosmetic color improvement of the nipple-areola complex by optimal use of tretinoin and hydroquinone.” Dermatol Surg. 2002 Dec;28(12):1153-7; discussion 1158. PMID: 12472496
  10. Nicholas Schmidt, (2011) “Tretinoin: A Review of Its Anti-inflammatory Properties in the Treatment of Acne” J Clin Aesthet Dermatol. 2011 Nov; 4(11): 22–29. PMID: 22125655
  11. Piérard-Franchimont C, (1998) “Tensile properties and contours of aging facial skin. A controlled double-blind comparative study of the effects of retinol, melibiose-lactose and their association.” Skin Res Technol. 1998 Nov;4(4):237-43. doi: 10.1111/j.1600-0846.1998.tb00116.x. PMID: 27332694
  12. 株式会社資生堂 (2018) “首のしわの改善効果を新発見、8週間で実現 ~レチノールの新効果 真皮に届きコラーゲン・ヒアルロン酸など産生促進~” https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001247.000005794.html 2018.11.04 アクセス
  13. Bhawan J, (1996) “Histologic evaluation of the long term effects of tretinoin on photodamaged skin.” J Dermatol Sci. 1996 Mar;11(3):177-82. PMID: 8785167

ご予約・お問い合わせ

高円寺院 Koenji
TEL 03-5913-7435
月~土 10:30-13:30/15:30-18:30 
日・祝 休診

麹町院 Kojimachi
TEL 03-6261-7433
平日 11:00-14:00/16:00-19:00
土日 10:00-13:00/15:00-18:00
祝日 休診

※両医院とも完全予約制となっておりますので、お電話かネットからご予約ください。
※医学的なご質問等、医師が対応する場合は別途電話再診料を頂戴することがございます。