ニキビ跡の赤みの消し方・治し方

目次

ニキビ跡の赤み(炎症後紅斑, PIE)とは?

ニキビ跡の赤みは、炎症を起こしたニキビが治癒した後に残るピンク~赤色、あるいは紫色の斑点を指します。これは医学的に炎症後紅斑(Post Inflammatory Erythema, PIE, えんしょうごこうはん)と呼ばれ、炎症によって拡張した毛細血管が透けて見えることで生じます。紅斑(こうはん)は医学用語で、赤い斑点(赤いスポット)という意味です。

ニキビあとの赤み(炎症後紅斑 PIE)

PIEは時間とともに自然に消退することもありますが、長期間残るケースもあり、適切なケアが求められます。PIEの赤い斑点をニキビだと思って「ずっとニキビが治らない」と相談してくる患者さんもいらっしゃいますが、すでにニキビは治っており跡が残っているだけです。

PIEの原因

PIEの発生には、以下の要因が関与します。

(1) 毛細血管の拡張と損傷

  • 強い炎症が起こると、血管拡張因子(ヒスタミン、プロスタグランジン、サイトカイン)が放出され、毛細血管が拡張・増生します。
  • 炎症が長引くと、毛細血管が慢性的に残り、赤みが持続します。

(2) 深部炎症と皮膚の修復機能の低下

  • 嚢胞性ニキビや重度の炎症性ニキビは真皮まで炎症が及びやすく、PIEが長引く原因となります。
  • 真皮はターンオーバーが遅いため、一度形成された赤みは長期間残ることがあります。

(3) 炎症後の赤血球漏出とヘモジデリン沈着

  • 強い炎症により血管壁の透過性が亢進し、赤血球が漏れ出ることがあります。
  • 赤血球がマクロファージに貪食されるとヘモジデリン(鉄分を含む色素)が沈着し、赤みが紫色へと変化することがあります。

(4) 慢性的な炎症の継続

  • ニキビ、湿疹、皮膚炎、酒さ、脂漏性皮膚炎などの慢性的な皮膚疾患が改善していない場合、その炎症自体がPIEの原因となり、改善が遅くなります。
  • こする・摩擦といった物理的刺激や紫外線によるダメージも血管の増生を促します。

PIEの治療法

(1) 自宅でのケア

① 化粧品・医薬部外品の活用

  • レチノール(ビタミンA):ターンオーバー促進により赤みの改善を助ける。
  • ビタミンC誘導体:抗酸化作用により血管拡張を抑制。
  • ナイアシンアミド:皮膚の炎症を鎮め、血管の健康をサポート。
  • トラネキサム酸:メラニン生成抑制と抗炎症作用。
  • メイクによるカバー:グリーン系のコントロールカラーにより赤みを一時的に目立たせなくする。

ただし、化粧品による効果は限定的で、医学的エビデンスが十分ではないことに留意が必要です。また、アットノンやヒルマイルドといったヘパリン類似物質が入った傷跡用のクリームやジェルを使用している方も時々おられますが、実はヘパリン類似物質のエビデンスは乏しく、効果はほぼ期待できません。

化粧品成分の中ではレチノールが最も効果的で、真皮上層まで働き肌のターンオーバーを促進して赤みの代謝を促します。しかし、ビタミンA反応といって、使い初めに逆に赤みが出るケースも多くあります。その場合には、使用頻度を落として継続していくことで肌が慣れてきて、赤みも起こりにくくなります。

化粧品と医薬部外品はあくまで補助的なものと考えましょう。

② 紫外線対策と物理的刺激の回避

  • 日焼け止め(SPF30以上、PA+++以上)を使用し、紫外線による血管増生を防ぐ。
  • 摩擦やマッサージは控え、皮膚に不要な刺激を与えない。

(2) 医療機関での治療

① 外用薬治療

  • トレチノイン(ビタミンA誘導体):ターンオーバー促進、炎症抑制。
  • ハイドロキノン:PIEではなく、炎症後色素沈着(PIH)の予防と改善に有効。

② レーザー治療

赤みの治療ができるレーザーは、「ロングパルスヤグレーザー」と「ダイレーザー(色素レーザー)」の2種類です。

  • ロングパルスヤグレーザー(1064nm):深部まで到達し、血管の収縮を促進。
  • ダイレーザー(585~595nm):ヘモグロビン吸収率が高く、赤みに特化。
スクロールできます
種類レーザー機器名
ロングパルスヤグレーザー
1064nm
スペクトラ、トライビームプレミアム、エクセルV(ジェネシス)、クラリティ、ジェントルマックスプロ、エリート、スプレンダーXなど
ダイレーザー
585nm 595nm
Vビーム、VビームⅡ、VビームPrima、シナジーJなど

ヘモグロビンに対する吸光度はダイレーザー>ロングパルスヤグレーザーですが、深部まで届くのはロングパルスヤグレーザー>ダイレーザーです。どちらを選択してもPIEに対する効果は大きく変わりません。スポットサイズ、パルス幅、出力などのパラメーター設定のほうが重要な要素です。当院では、100Vと200Vの2機種のロングパルスヤグレーザーを使用しています。

③光治療

IPLやフォトフェイシャル(M22やアイコンなどの機種)は光治療器であり、ヘモグロビンに吸収される波長帯を多く含む光を照射することで赤みに効果を発揮します。しかし、多波長のため、赤みの色素(ヘモグロビン)だけにターゲットを絞る波長を出すことができません。一方、レーザーは赤に吸光する単一波長で赤みを分解し、血管を退縮させます。そのため、光治療の赤みへの効果はレーザーよりも劣るのが実情です。

④ ダーマペン(マイクロニードル)

  • 皮膚の再生を促し、赤みを改善。
  • ただし、施術直後は逆に炎症が強まり、PIEやPIHの原因となる可能性があるため慎重に実施。
  • 赤みというよりニキビ跡の凹みの治療目的で使用することが多い。

⑤ ピーリング

  • サリチル酸マクロゴールピーリング(30~40%):浅い層の赤みに有効。ターンオーバー促進により赤みの代謝を促す。
  • トレネックスレチピール(レチノール+トラネキサム酸):比較的深い層の赤みに有効だが、ダウンタイムが長い。

⑥ ステロイド外用(短期間限定)

  • 炎症初期の赤みを抑えるが、血管拡張や易感染性(ニキビ等の悪化)といった副作用があるため、長期使用は控える。
  • 使用する際には必ず医師の指示に従うこと。

(3) イソトレチノイン内服とロングパルスYAGレーザー併用療法

イソトレチノイン(Isotretinoin)はビタミンA誘導体の内服薬で、難治性ニキビや重症ニキビ治療に用いられます。皮脂分泌を強力に抑制し、アクネ菌に対する抗菌・抗炎症作用も持つため、「ニキビのできにくい肌質」に改善する効果があります​。

当院の経験上、このイソトレチノインを継続しながらロングパルスYAGレーザーを並行して行う方法が、ニキビ跡の赤みに対して非常に高い効果を発揮することが分かってきました​。

イソトレチノインとレーザーを併用するメリット

  • 新しいニキビの抑制:イソトレチノイン内服によりニキビや面皰による慢性的な炎症を根本から抑えます。これにより、治療中に新たな赤みが増える悪循環を断ち切ることができます。先述の「PIEの原因」で記載したとおり、赤みを確実に減らすには、まず原因の炎症を止めることが不可欠であり、イソトレチノインはその最も強力な手段です。
  • レーザー効果の増強:イソトレチノインには皮膚のターンオーバー(新陳代謝)促進作用があるため、レーザー照射で破壊・凝縮された血液成分や組織老廃物の排出が早まり、赤みの消退がスムーズになります。また、表皮の角質層が適度に薄くなる作用もあるため、レーザー光が皮膚のより深部まで届きやすくなるという利点もあります。さらに、レーザー後に稀に起こる毛包炎(ニキビに似たブツブツ)もイソトレチノインの抗炎症作用で起こりにくくなります。
  • 高い赤み改善効果:イソトレチノイン単独でも抗炎症作用によりPIEが改善することがありますが、レーザーと併用することで相乗効果により赤みが格段に早く薄くなる傾向があります。実際、イソトレチノイン低用量内服+ロングパルスYAGレーザー(1064nm)を組み合わせた群は、内服のみの群に比べて有意に赤みの改善度が高かったとの臨床研究結果があります。
  • 治療期間の短縮:従来、赤みを消すには月1回程度のレーザーを何度も繰り返し、さらにニキビ治療を順次行うため長い期間を要することが多いものでした。併用療法ではニキビ治療と赤み治療を同時並行で行えるため、トータルの治療期間短縮が期待できます。

当院患者さんの下記症例写真では、イソトレチノイン内服を開始しつつ約2週間毎にロングパルスYAGレーザーを10回照射した結果、頑固だった顔全体の赤みが大幅に改善しました。

併用療法では通常、イソトレチノインは低~中用量に抑え、副作用に注意しながら継続します。同時にレーザーは肌への負担が大きすぎない出力・間隔で複数回行います。当院ではイソトレチノイン内服中のレーザーの可否は、医師が診察で判断しており、副作用の有無を慎重に確認しながら治療を進めています​。

併用療法の安全性:本当に大丈夫?エビデンスと現場の知見

「イソトレチノイン服用中はレーザー治療を行ってはいけない」──従来、このように言われてきました。実際、イソトレチノインの添付文書や古いガイドラインでは、内服中および内服終了後6~12ヶ月は、レーザーや皮膚剥脱を伴うピーリングなどの処置を避けるよう記載されています。

これは過去の症例報告で、イソトレチノイン内服中に強いピーリングやレーザーを行った患者に治癒遅延や瘢痕形成(ケロイド)のリスクが指摘されたことによります。しかし近年の研究では、適切に管理された条件下であればイソトレチノインとレーザーの併用による有害事象のリスクは極めて低いことが示されています。

例えば2020年の系統的レビューでは、871人の患者を対象に「イソトレチノイン内服中または内服直後にレーザー治療を行ったケース」を調査し、有害事象は一時的な副作用が12例に見られたのみで、瘢痕(ケロイド)は2例の報告例に留まり、総合的に見て、イソトレチノインとレーザー同時併用によるリスクは非常に小さいか皆無であると結論づけられています。

  • 経験のある医師の管理下で行う:併用療法は専門的判断が求められる治療です。皮膚の状態を的確に見極め、レーザー照射パラメータを調整できる熟練した医師の管理下で施術を受けることが大前提です。医師の許可なく自己判断で併用療法を試みるのは危険です​。
  • イソトレチノインの副作用モニタリング:イソトレチノインは副作用(口唇の乾燥、肝機能値の変化、催奇形性など)があるため、定期的な血液検査や問診で安全に継続できるかチェックします​。女性患者の場合は内服中および終了後6ヶ月間の厳重な避妊が必要です。
  • マイルドな出力・方法のレーザーを選択:肌に大きなダメージを与えるような強力すぎるレーザーや深い剥脱を伴う治療は避け、できるだけ表皮へのダメージが少ない設定でレーザー照射を行います。また照射間隔を十分に空けて皮膚の回復を待ちながら治療を進めます。
  • 患者さん自身のケアも徹底:治療期間中は患者さんにも保湿・紫外線対策を徹底してもらい、肌コンディションを良好に保つことで副作用リスクを下げ、治療効果を最大化します。

以上を守れば、イソトレチノイン併用下でもレーザー治療は適切に安全に行えると考えられます。実際、欧米の皮膚科学会でも「6ヶ月待機ルール」は再検討すべきとの意見が増えており、例えば欧州皮膚科学会(EADV)の見解では「従来のガイドラインは今後見直される可能性がある」とされています​。

最も大切なこと

PIEの治療を行う上で最も大切なことは、治療前にニキビ跡の原因である「ニキビ」を治すことです。

治療写真の黒の矢印部分をご覧ください。レーザー10回後の写真には、以前には存在しなかった紅斑が出現しています。これは、新たにニキビができた跡です。

ニキビができ続ける場合には、PIEはどんどん増えていきますので、レーザーやピーリングを受けてもいたちごっことなり改善しません。

顔全体に赤みが目立つ方の肌を診察すると、多数のコメドや細かいニキビ、アトピー性皮膚炎、酒さや脂漏性皮膚炎などの炎症が存在します。

例え小さなコメドでも、皮膚に慢性的な炎症を引き起こす原因となり、毛細血管が退縮しません。そのようなケースでは、レーザー前、もしくは、レーザーと併用して細かいニキビも内服治療で一掃してしまうことが重要です。

参考文献・サイト一覧
  1. Alster TS, West TB. Effect of topical vitamin C on postoperative carbon dioxide laser resurfacing erythema. Dermatol Surg. 1998 Mar;24(3):331-4. doi: 10.1111/j.1524-4725.1998.tb04163.x. PMID: 9537007.
  2. Dreher F, Maibach H. Protective effects of topical antioxidants in humans. Curr Probl Dermatol. 2001;29:157-64. doi: 10.1159/000060664. PMID: 11225195.
  3. Dreher F, Gabard B, Schwindt DA, Maibach HI. Topical melatonin in combination with vitamins E and C protects skin from ultraviolet-induced erythema: a human study in vivo. Br J Dermatol. 1998 Aug;139(2):332-9. doi: 10.1046/j.1365-2133.1998.02447.x. PMID: 9767255.
  4. Jakhar D, Kaur I. Topical 5% tranexamic acid for acne-related postinflammatory erythema. J Am Acad Dermatol. 2020 Jun;82(6):e187-e188. doi: 10.1016/j.jaad.2019.09.074. Epub 2019 Oct 4. PMID: 31589950.
  5. Bierman JC, Laughlin T, Tamura M, Hulette BC, Mack CE, Sherrill JD, Tan CYR, Morenc M, Bellanger S, Oblong JE. Niacinamide mitigates SASP-related inflammation induced by environmental stressors in human epidermal keratinocytes and skin. Int J Cosmet Sci. 2020 Oct;42(5):501-511. doi: 10.1111/ics.12651. Epub 2020 Aug 20. PMID: 32657437.
  6. Grimes PE. A microsponge formulation of hydroquinone 4% and retinol 0.15% in the treatment of melasma and postinflammatory hyperpigmentation. Cutis. 2004 Dec;74(6):362-8. PMID: 15663072.
  7. Busch KH, Aliu A, Walezko N, Aust M. Medical Needling: Effect on Skin Erythema of Hypertrophic Burn Scars. Cureus. 2018 Sep 6;10(9):e3260. doi: 10.7759/cureus.3260. PMID: 30430049; PMCID: PMC6219864.
  8. Sofen B, Prado G, Emer J. Melasma and Post Inflammatory Hyperpigmentation: Management Update and Expert Opinion. Skin Therapy Lett. 2016 Jan;21(1):1-7. PMID: 27224897.
  9. Bhatia ND, Werschler WP, Cook-Bolden FE, Guenin E. Tolerability of tretinoin lotion 0.05% for moderate to severe acne vulgaris: a post hoc analysis in a black population. Cutis. 2020 Jul;106(1):45-50;E1. doi: 10.12788/cutis.0059. PMID: 32915939.
  10. Morton LM, Smith KC, Dover JS, Arndt KA. Treatment of purpura with lasers and light sources. J Drugs Dermatol. 2013 Nov;12(11):1219-22. PMID: 24196329.
  11. Adamic M, Troilius A, Adatto M, Drosner M, Dahmane R. Vascular lasers and IPLS: guidelines for care from the European Society for Laser Dermatology (ESLD). J Cosmet Laser Ther. 2007 Jun;9(2):113-24. doi: 10.1080/14764170701280693. PMID: 17558762.
  12. Albalat W, Ehab R, AbouHadeed MH, Abd Allah TN, Essam R. Combined low-dose isotretinoin and long-pulsed nd: YAG laser in the treatment of post-acne erythema. Arch Dermatol Res. 2024 Jun 8;316(7):359. doi: 10.1007/s00403-024-03143-5. PMID: 38850412; PMCID: PMC11162358.
  13. Mirza FN, Mirza HN, Khatri KA. Concomitant use of isotretinoin and lasers with implications for future guidelines: An updated systematic review. Dermatol Ther. 2020 Nov;33(6):e14022. doi: 10.1111/dth.14022. Epub 2020 Aug 14. PMID: 32677092.

関連ページ-Related Pages-

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次