ニキビ跡の赤みの消し方・治し方

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ニキビ跡の赤み(PIE)

ニキビ跡の赤みは、ニキビが大きく腫れたり、膿を持ったりして、その後にピンク~赤色、または、紫色の斑点が残った状態です。

この赤みは、炎症後紅斑(Post Inflammatory Erythema, PIE)と呼ばれます。紅斑(こうはん)は医学用語で、赤い斑点(赤いスポット)という意味です。

ニキビあとの赤み(炎症後紅斑 PIE)

PIEは自然に消退していきますが、一度できると頑固で消えにくいものも多くあります。PIEの赤い斑点をニキビだと思って「ずっとニキビが治らない」と相談してくる患者さんもいらっしゃいますが、すでにニキビは治っており跡が残っているだけです。

原因

PIEは、皮膚の毛細血管が拡張したり、増生したり、損傷したりして引き起こされます。「こもりニキビ(嚢胞性ニキビ)」のような、皮膚の下にしこりをもった大きなニキビや、炎症が強く赤く腫れたニキビが主な原因となります。

その他にも、湿疹、皮膚炎、日焼け、物理的な皮膚の損傷などが原因で起こることもあります。

自然に治っていくものもありますが、数ヶ月~数年以上、長期に赤みが続くものもあります。これは、炎症が起こる深さと慢性的な炎症が関係しています。

炎症の深さ

小さなニキビの炎症であれば、皮膚の浅い部位に小さなPIEが起こり、ターンオーバーによって自然に軽快していきます。しかし、ニキビの炎症が強く、皮膚の深い部位にPIEが起こった場合には、真皮の代謝は非常に遅いため、PIEが治りにくくなります。

慢性的な炎症

小さなコメドであっても常にニキビができ続けている状態であれば、赤みは治りません。酒さや脂漏性皮膚炎なども同様に、肌に常に慢性的な炎症が起こっている場合、毛細血管は退縮しません。

治療

自宅できる治療

ニキビ跡の赤みを消すために自分でできることは限られていますが、以下のものがあります。

化粧品・医薬部外品

レチノール(ビタミンA)、ビタミンC、ナイアシンアミド、トラネキサム酸など、肌のターンオーバーを促したり、色素沈着を予防したり、抗炎症作用のある成分が入った化粧品・医薬部外品を使用します。

化粧品成分がPIEに対して効果的に働くというエビデンスはありませんが、紫外線やレーザー後の紅斑に対する効果や、炎症後色素沈着の予防効果は報告されています。

化粧品成分の中ではレチノールが最も効果的で、真皮上層まで働き肌のターンオーバーを促進して赤みの代謝を促します。しかし、ビタミンA反応といって、使い初めに逆に赤みが出るケースも多くあります。その場合には、使用頻度を落として継続していくことで肌が慣れてきて、赤みも起こりにくくなります。

また、アットノンやヒルマイルドといったヘパリン類似物質が入った傷跡用のクリームやジェルを使用している方も時々おられますが、実はヘパリン類似物質のエビデンスは乏しく、効果はあまり期待できません。

化粧品と医薬部外品はあくまで補助的なもので、自然に消えているのか、効果が出ているのかが判断しにくいと言えます。

紫外線と物理的刺激を避ける

炎症や刺激は、毛細血管の拡張や増生を促します。ニキビが治って皮膚の炎症が収まれば、周囲の毛細血管は縮小し、徐々に退縮して赤みがなくなります。

しかし、日焼けをして常に肌に炎症を起こしていたり、マッサージなどの物理的な刺激を加えたりしていると、血管の退縮が起こりにくくなります。日焼けやマッサージなど、肌への刺激になることは避けましょう。

医療機関での治療

PIEがなかなか改善しないケースでは、治療を行うことで比較的早期に改善させることが可能です。

トレチノイン

トレチノインはレチノールの強力なバージョンと考えて差し支えありません。表皮のターンオーバーを促進し、細胞の新生やメラニンの排出を促すため、ニキビ跡の赤みを早く消す作用があります。肝斑や炎症後色素沈着にも使用されます。

しかし、トレチノインは、レチノールよりも作用・副作用とも強く、使い始めの2~3週間は逆に赤みが強く出る頻度が高いことに注意が必要です。

化粧品成分としても使われることがある「ハイドロキノン」をトレチノインと併用することもあります。ハイドロキノンが直接赤みを改善することはありませんが、炎症後のシミを抑制する作用があります。トレチノインでシミを追い出すとともに、ハイドロキノンで新しく出てきた細胞のメラニンを抑えることで、白い肌に置き換えていきます。

ダーマペン

ダーマペン(マイクロニードル)は、先端に多数の微小な針がついた医療用デバイスです。皮膚表面を細かく傷つけることで、肌が再生する過程を利用して新しい肌に入れ替えていきます。

細胞新生作用があるため、PIEにも効果を認めたという報告もありますが、赤みに対してはマイルドな効果であまり期待はできません。皮膚を傷つける侵襲的な治療のため、ダーマペン後に逆にPIEやPIHが起こってしまうリスクもあります。

ダーマペンは、ニキビ跡の萎縮性瘢痕(凹み)を改善させる作用もあり、当院では主にこちらの用途で施術しています。

ロングパルスヤグレーザー

赤みをターゲットに治療できるレーザーは、主に「ロングパルスヤグレーザー」と「ダイレーザー(色素レーザー)」の2種類です。

スクロールできます
種類レーザー機器名
ロングパルスヤグレーザー
1064nm
スペクトラ、トライビームプレミアム、エクセルV(ジェネシス)、クラリティ、ジェントルマックスプロ、エリート、スプレンダーXなど
ダイレーザー
585nm 595nm
Vビーム、VビームⅡ、VビームPrima、シナジーJなど

ヘモグロビンに対する吸光度はダイレーザー>ロングパルスヤグレーザーですが、深部まで届くのはロングパルスヤグレーザー>ダイレーザーです。どちらを選択してもPIEに対する効果は大きく変わりません。スポットサイズ、パルス幅、出力などのパラメーター設定のほうが重要であり、機種によって適正があります。

ニキビ跡のPIEは顔に多数できることが多いため、当院ではロングパルスヤグレーザーを顔全体に5000ショットほど照射します。

写真の患者さんは、イソトレチノインという薬を内服しながらロングパルスヤグレーザーを10回受けています。イソトレチノインはニキビの飲み薬ですが、トレチノインと同様の作用があり、レーザーと併用することで下記のメリットがあります。

イソトレチノイン内服とレーザーを組み合わせるメリット
  • 肌のターンオーバーが亢進するため、レーザーで分解した赤みがより早く排出される
  • ニキビやコメドなどの炎症が除去できるため、毛細血管の退縮が促される
  • レーザー後に反応性の毛包炎が起こりにくくなる
  • 角質層が薄くなるため、レーザーの到達深度が深くなる

デメリットはイソトレチノインは光の感受性を高めるため、内服中にレーザーを行うと赤みややけど、白斑などの皮膚への影響が懸念されますが、マイルドロングパルスヤグレーザーは比較的安全に照射することができます。

メリットがデメリットを大きく上回り、効果的にニキビ跡を改善させることができるので、近年は低用量のイソトレチノインとロングパルスヤグレーザーを組み合わせることが多くなっています。

強力ロングパルスヤグレーザー

強力ロングパルスヤグレーザーは、200Vの高出力機種を用いてスポット径を20mmとして照射をすることで治療します。通常のロングパルスヤグレーザーは2週間間隔で10回ほどの治療が必要ですが、強力ロングでは1ヶ月間隔で5回を目安に治療を行います。

1回の治療効果は強力ロング>ロングパルスヤグレーザーですが、5回の強力ロング≒10回のロングパルスヤグレーザーであり、強力ロングは強い痛みが伴うので麻酔が必要なことと、照射部位に濃い毛があると脱毛してしまいます。

医師の許可がない限りイソトレチノイン内服と併用できません。イソトレチノイン+ロングパルスヤグレーザーと強力ロング単独を比較すると、前者のほうが効果的です。

光治療

光は多波長で、赤みの色素(ヘモグロビン)だけにターゲットを絞ることができません。一方、レーザーは赤に吸光する単一波長で赤みを分解し、血管を退縮させます。そのため、光治療の赤みへの効果はレーザーよりも劣りますが、ヘモグロビンに吸収される波長帯をメインに採用している光治療器も登場しており、ある程度PIEに有効です。

ピーリング

医療機関では、グリコール酸、サリチル酸、TCA、レチノールなどのピーリングが用いられます。ピーリングはレーザーほどの効果は期待できませんが、比較的安価であり、背中などの広い面積を治療するのに適しています。時には、ピーリングとレーザーを併用することもあります。

当院では、サリチル酸マクロゴールピーリング(30%、または、40%)やトレネックスレチピール(レチノール+トラネキサム酸)を用いて治療しています。

ステロイド軟膏

ステロイドは強力な抗炎症作用をもつため、ニキビ跡の極初期(できたばかり)の赤みを改善させるのに役立ちます。しかし、長期使用で血管拡張やニキビ悪化などの副作用があり、古いPIEには用いません。使用にあたっては医師の指示に従ってください。

最も大切なこと

PIEの治療を行う上で最も大切なことは、治療前にニキビ跡の原因である「ニキビ」を治すことです。

治療写真の黒の矢印部分をご覧ください。レーザー10回後の写真には、以前には存在しなかった紅斑が出現しています。これは、新たにニキビができた跡です。

ニキビができ続ける場合には、PIEはどんどん増えていきますので、レーザーやピーリングを受けてもいたちごっことなり改善しません。

顔全体に赤みが目立つ方の肌を診察すると、多数のコメドや細かいニキビ、アトピー性皮膚炎、酒さや脂漏性皮膚炎などの炎症が存在します。

例え小さなコメドでも、皮膚に慢性的な炎症を引き起こす原因となり、毛細血管が退縮しません。そのようなケースでは、レーザー前、もしくは、レーザーと併用して細かいニキビも内服治療で一掃してしまうことが重要です。

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