美容医療の分野で注目されている「エクソソーム」を利用した治療について、簡単にその説明と選択ポイントを記載します。
エクソソームとは何か?What are exosomes?
エクソソームは、私たちの細胞が作り出す「小さな泡(細胞外小胞)」です。細胞が他の細胞と情報を共有するために使われます。
簡単に言うと、エクソソームは「メッセージを運ぶ郵便配達員さん」のような役割を果たします。細胞が作ったタンパク質やRNAなどの重要な物質を含んでおり、これらを体の別の場所にある細胞に届けることで、細胞同士がコミュニケーションを取り合います。
エクソソームは、細胞内のエンドソームから発生します。エンドソーム内で、小胞体が複数集まって多胞体(MVB)を形成し、その中にはタンパク質やRNAなどの貨物が含まれます。これらの多胞体は細胞の外に放出される前に成熟し、最終的に細胞のプラズマ膜と融合して、その中の小胞がエクソソームとして放出されます。
エクソソームの生合成は、細胞間コミュニケーションだけでなく、免疫応答、組織修復、幹細胞の維持、中枢神経系のコミュニケーションなど、多くの生理的プロセスに影響を与えます。1 2
エクソソームと幹細胞培養上清液
エクソソームは、ヒトの幹細胞を培養する過程で生成されます。幹細胞は、脂肪、臍帯血、乳歯の歯髄、骨髄などに存在し、体内のあらゆる細胞の起源となる細胞です。
幹細胞の培養中には、500~700種類のサイトカイン(成長因子)やエクソソームが培養液に放出されます。この上澄み、すなわち幹細胞培養上清液を使用した治療法は、「エクソソーム治療」として知られています。
サイトカインやエクソソームが豊富に含まれる培養上清液は、細胞の活性化を促進し、美容医療や再生医療において抗老化効果や、様々な疾患に対する治療効果が期待されています。
エクソソーム製剤(幹細胞培養上清液)について
エクソソームを含む幹細胞培養上清液を用いた治療は、意外にも古くから存在し、私自身も10年前から脂肪、歯髄、臍帯血由来の培養上清液を使用した治療経験があります。当院で採用しているエクソソーム製剤は、国内の健康な若い女性から採取した脂肪を使用しています。
国内の医療機関では、主に脂肪由来の幹細胞培養上清液から得られるエクソソーム製剤が使用されています。脂肪には幹細胞が豊富に含まれているだけでなく、歯髄や骨髄、臍帯血と比較して容易に採取できるためです。
美容医療の人気が高まる中、多くの企業がエクソソーム製剤の製造に参入していますが、品質は異なります。ここでは、製剤の選択や治療を受ける際の注意点について述べます。
企業の信頼性
日本国内ではエクソソーム製剤は未承認であり、自費診療でのみ研究用試薬として使用されます。製造には、GMPグレードに準拠したラボが必要であり、企業との提携や共同研究が必要不可欠です。
エクソソーム製剤を製造している複数の企業に、検体の採取方法や製造方法、研究製造施設について問い合わせたところ、いくつかの企業は全く情報を開示しませんでした。また、ウェブサイトに掲載されている研究製造施設の写真が他社の別事業のものであるケースも見受けられました。
当院では、製剤の信頼性を重視し、情報開示がない企業の製剤は避けることにしました。そのため、国内の大学病院で検体を採取し、GMPグレードに準拠したラボで製造する企業と共同研究契約を結ぶことにしました。
エクソソーム量と成長因子量
「エクソソームを数倍含有」という宣伝をよく見ますが、エクソソームは細胞間の伝達を担う小胞であり、単に数が多いと良いわけではありません。
あくまで当院の考え方ですが、幹細胞培養上清液に含まれるエクソソームとサイトカイン(成長因子)の両方の含有量が高いことを重視しています。
エクソソーム数の測定方法には、レーザーを用いた動的光散乱法が用いられますが、エクソソームと同サイズのタンパク質も検出するため、完全に正確ではありません。さらに、エクソソームの膜マーカータンパク質に対する抗体を用いた免疫沈降法によってエクソソームを濃縮し、Western Blottingにより内包タンパク質の検出を行うこともあります4。しかし、非常に限られた研究施設でしか正確なエクソソーム量は測定できないので、一医療機関では難しいのが現状です。
さらに、培養上清液の採取時、凍結乾燥時、溶解時においてもエクソソームの検出量は変化するため、含有量の宣伝は慎重に受け止めるべきです。
培養上清液に含まれる成長因子量は、多くの場合HGFを指標に検査されます。HGF含有量が多いほど、他の成長因子も豊富であるとされています。当院では、HGF含有量が120,000 pg/ml(120 ng/ml)の製剤を使用しています。
使用直前の溶解
エクソソームの効果を最大限に引き出すには、使用方法が最も重要です。それには、エクソソーム製剤の特徴を知っておく必要があります。
エクソソーム製剤は、幹細胞培養上清液をフリーズドライ(凍結乾燥)によって粉末化して製造されます(一部の製剤は液体や凍結状態で提供されます)。フリーズドライ製法は、タンパク質(成長因子やエクソソーム)を壊しにくく、活性を保ちながら長期保存が可能です。
医薬品のbFGFや化粧品のEGF原料も同様にフリーズドライで製造されています。バイアルに生理食塩水を加え、凍結乾燥粉末を溶かして使用しますが、成長因子の活性は溶解直後が最も高く、時間とともに徐々に低下します。
そのため、溶解した製剤は保管せず、使用直前に1バイアルを溶解し、1人の患者に使い切るのが最も良く、無菌性の担保という観点からも推奨されます。
使用量
多くのエクソソーム製剤は、1瓶(1バイアル)に、幹細胞培養上清液2~3mLを凍結乾燥させた粉末が入っています(当院で採用しているエクソソーム製剤も1バイアルあたり、約2.5mLの脂肪幹細胞培養上清液を凍結乾燥させています)。
「エクソソーム 2mL 〇〇円、4mL 〇〇円」といった形で料金表記されている場合、1バイアルを2mLの生理食塩水で溶かしている場合もあれば、4mLの生理食塩水で溶かしている場合もあり、消費者にとって分かりにくい料金体系となっています。
1バイアルを小分けにして複数人へ使用している医療機関もあるため、製剤の量と料金の比較をするためには「1バイアルあたり、何mLの幹細胞培養上清液が含まれているのか?」「1バイアルを何mLで溶解して何mL使用するのか?」も併せて確認すると良いでしょう。
その他、当然のことですが、ドナーと製剤の各種感染症検査、有害物質(アンモニアや乳酸等の不純物)の除去などの安全性にかかわる項目や、培養細胞の継代数なども重要です。
参考文献・サイト一覧
- Han QF, Li WJ, Hu KS, Gao J, Zhai WL, Yang JH, Zhang SJ. Exosome biogenesis: machinery, regulation, and therapeutic implications in cancer | Molecular Cancer | Full Text (biomedcentral.com). 2022 Nov 1;21(1):207. doi: 10.1186/s12943-022-01671-0. PMID: 36320056; PMCID: PMC9623991.
- Gurung S, Perocheau D, Touramanidou L, Baruteau J. The exosome journey: from biogenesis to uptake and intracellular signalling. Cell Commun Signal. 2021 Apr 23;19(1):47. doi: 10.1186/s12964-021-00730-1. PMID: 33892745; PMCID: PMC8063428.
- Zhang Y, Liu Y, Liu H, Tang WH. Exosomes: biogenesis, biologic function and clinical potential. Cell Biosci. 2019 Feb 15;9:19. doi: 10.1186/s13578-019-0282-2. PMID: 30815248; PMCID: PMC6377728.
- BECKMAN COULTER Life Sciences エクソソーム研究における基本と今後の展望(3)エクソソームの円滑な解析のためのポイント https://www.beckman.jp/resources/sample-type/extracellular-vesicles/exosomes/interviews/basic-future-prospects/part-3