男性のAGA治療薬として知られる「フィナステリド」は、女性の薄毛にも効果が期待できるのでしょうか?
当院では、40代以上で妊娠の予定がなく、他の治療法が効果を示さなかった女性にフィナステリドを処方することがあります。本記事では、その効果や安全性について分かりやすく解説します。
フィナステリドの作用とは?
フィナステリドは、元々男性型脱毛症(AGA)の治療薬として開発されました。その作用機序は、5αリダクターゼという酵素を抑制することで、テストステロンからジヒドロテストステロン(DHT)への変換を防ぐことです。DHTは、毛包の萎縮を引き起こし、脱毛を進行させる主因とされています。
女性がフィナステリドを使用する場合、男性同様にDHTの抑制を通じて毛髪の成長を促進することが期待されます。ただし、妊娠可能な女性には禁忌とされており、その理由は次に説明します。
フィナステリドが女性に禁忌とされる理由
フィナステリドは、妊娠中に服用すると男性胎児の外性器発達に影響を与える可能性があるため、妊娠可能な女性には禁忌とされています。また、錠剤を粉砕したり割ったりした場合、薬剤が皮膚から吸収されるリスクがあるため、女性が触れる場合には注意が必要です。
ただし、通常の錠剤を触れる程度では危険性は低く、内服中の男性に触れたり、キスをすることによる問題は報告されていません。
女性へのフィナステリドの効果
女性の薄毛のメカニズムは複雑で完全には解明されていませんが、DHTが関与している可能性が示唆されています。以下に、女性へのフィナステリドの効果を示す研究結果を紹介します。
- 高用量フィナステリドの効果
- 閉経前、および、閉経後女性87名を対象とした非対照試験では、1日5mgのフィナステリドを12ヶ月間服用した結果、毛髪密度が18.9%、毛髪直径が9.4%増加し、患者の81%が臨床的改善を実感したと報告されています。1
- 高用量フィナステリド(1日5mg)を6人の女性の薄毛に投与し、アンケートを用いて有効性を評価した後ろ向き研究では、6人中5人の患者が治療の効果があったと報告しました。2
- 48人の高アンドロゲン性脱毛症のある閉経前女性を対象に、フィナステリド5mgを1日1回、酢酸シプロテロン50mgとエチニルエストラジオール25µg/日の併用、フルタミド250mgを1日1回、および無治療の4つのグループで有効性を評価した結果、フィナステリドの有効性は認められませんでした。3
- 中用量フィナステリドの効果
- 高アンドロゲン血症のない閉経後女性5名を対象に、フィナステリド2.5mg、または、5mgの有効性を評価した研究では、6ヶ月で全員が脱毛の改善を認め、そのうち4人は顕著な発毛を自己報告しました。4
- 高アンドロゲン血症のない閉経前女性37名を対象とした試験では、ドロスピレノンとエチニルエストラジオールを含む経口避妊薬を併用しながら、1日2.5mgのフィナステリドを12ヶ月間服用した結果、患者の62%が毛髪密度の増加を認め、アンケートでは患者の78%が改善を報告しました。5
- 低用量フィナステリドの効果
- 男性型脱毛症の女性を対象に行われた3年間の研究では、フィナステリド1.25mgとデュタステリド0.15mgの両薬剤が毛髪の太さを有意に増加させる効果を示しました。50歳未満の年齢層では、デュタステリドがフィナステリドよりも優れた効果を示す結果も観察されました。この研究では、フィナステリド群の女性の81.7%、デュタステリド群の女性の83.3%が毛髪の改善を実感しました。6
- 閉経後女性137名を対象とした多施設二重盲検ランダム化試験では、1日1mgのフィナステリドとプラセボを比較したところ、有意な効果は観察されませんでした。7
これらの研究結果から、フィナステリドは女性に対しても一定の効果が期待できるものの、投与量や対象となる患者の条件によって効果が異なることが分かります。
当院の臨床経験
妊娠可能な女性へのフィナステリドは禁忌ですが、将来的に妊娠の予定がない40代以降の女性や閉経後の女性で、かつ、スピロノラクトン等の他の薬剤が無効な場合に、フィナステリドの使用が考慮されることがあります。
当院では、40代以降の妊娠予定がない女性や閉経後の女性に対して、医師による説明と同意を得た上でフィナステリドを処方しています。これまでの臨床経験では、重篤な副作用は報告されておらず、軽微な副作用もほとんどありません。また、全員ではありませんが、多くの患者が抜け毛の減少を実感しています。
例えば、40代後半の女性患者で、1年以上のフィナステリド治療後に抜け毛が大幅に減少し、髪質の改善も報告されました。この患者さんは高い満足感を得られています。
フィナステリドの女性への安全性
フィナステリドの女性への安全性については、多くの研究で検証されています。以下は主な研究結果の概要です。10
- 主な副作用
- 頭痛、月経不順、めまい、体毛の増加が報告されていますが、いずれも軽度で一時的なものと報告されています。
- 副作用の頻度
- フィナステリド5mgを12ヶ月服用した場合、約20%の患者が性欲減退を報告しましたが、治療継続によって副作用は軽減される傾向がありました。これは初期の血清DHTの低下によるものと推察されています。
- 長期の安全性
- 36ヶ月間の追跡調査では、30人中1人のみが軽度の副作用を報告しました。副作用の頻度は時間の経過とともに減少しました。
- 妊娠中のリスク
- フィナステリドは妊娠中の女性には禁忌であり、男性胎児に外性器の異常を引き起こす可能性があります。
これらの研究結果を踏まえると、閉経後または妊娠の可能性がない女性において、フィナステリドは比較的安全に使用できる選択肢と考えられます。ただし、フィナステリドは女性の薄毛に広く使用されている薬剤ではないことから、女性における副作用は十分に解明されていません。さらに大規模な長期の研究が必要です。
注意点とリスク管理
フィナステリドの使用にあたり、以下の点に注意する必要があります。
- 妊娠リスクの排除:
- 将来妊娠する予定がないか、または閉経後であることを確認。
- 適応外処方と副作用リスク:
- 女性への使用は未承認で適応外処方であり、医薬品副作用被害救済制度の対象外であること。
- 効果、副作用とも確率されていないこと。
- 妊娠中・授乳中、乳がんの既往歴・家族歴がないこと。
- 薬剤への接触防止:
- 錠剤を割ったり粉砕したりせず、妊娠可能な女性が触らないように注意。
- 継続的なモニタリング:
- 効果と副作用を定期的に評価し、必要に応じて投薬を調整。
まとめ
フィナステリドは、特定の条件を満たす女性において安全かつ有効な薄毛治療の選択肢となる可能性があります。ただし、妊娠可能な女性には禁忌であり、使用に際しては医師による定期的な診察や管理が必要です。薄毛に悩む女性の皆さまが、より自信を持てる日々を過ごせるよう、医師と適切な治療法を選択しましょう。
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