はじめに
「イソトレチノインは何ヶ月飲めばいいの?」「効果が出るまでどのくらいかかる?」「治療費はどのくらい?」
ニキビに悩む多くの方から、こうした質問をよく受けます。イソトレチノイン(商品名:アキュテイン、ロアキュテイン、アクネトレントなど)は、特に重症ニキビに対して劇的な効果を発揮する治療薬です。
今回は、イソトレチノインの服用期間、いつ飲めば効果的か、費用などについて、皮膚科医師の立場から詳しくご説明します。
イソトレチノインとは
イソトレチノインはビタミンA誘導体の一種で、次のような作用によりニキビを根本から改善します。
- 皮脂の過剰分泌を抑制
- 毛穴の角化異常を正常化
- ニキビの炎症を抑える
- ニキビ跡の形成を予防
特に他の治療法で改善が見られない中度から重度のニキビに効果を発揮する強力な内服薬です。
イソトレチノインは何ヶ月飲めばいいの?服用期間の目安
標準的な服用期間
イソトレチノインの一般的な治療期間は4〜6ヶ月です[1][2]。個人差はありますが、この期間の服用で多くの患者さんが十分な効果を得られています。
当院では1クール6~8ヶ月の服用を推奨しています。再発防止を重視し、後述する累積用量(積み重ねた総量)も考慮しているためです。欧州のガイドラインでも6ヶ月以上が推奨されています[3]。さらに、症状によっては治療効果を維持するため、その後用量を減らして「低用量維持療法」として半年程度継続することもあります。
イソトレチノインで再発を防ぐために必要な服用期間とは?
ニキビの再発を防ぐには、適切な累積用量(累積投与量)に達するまでイソトレチノインを服用することが重要です。従来、体重1kgあたり累積で120mg以上、理想的には220mg以上の用量が再発率低下に効果的と報告されています。
- 体重1kgあたり累積で120mg以上の用量でニキビ再発率が低下
- 体重1kgあたり累積で220mg以上の用量でさらに再発率が有意に低下
例えば体重60kgの方の場合:
- 220mg/kgを目標とすると、6ヶ月の治療で1日あたり約73mgが必要
- 120mg/kgを目標とすると、6ヶ月の治療で1日あたり約40mgが必要
体重(kg)
体重 (kg) |
累積用量120mg/kg 1日の必要用量 |
累積用量220mg/kg 1日の必要用量 |
---|---|---|
40kg 40 | 4,800mg 1日あたり27mg |
8,800mg 1日あたり49mg |
50kg 50 | 6,000mg 1日あたり33mg |
11,000mg 1日あたり61mg |
60kg 60 | 7,200mg 1日あたり40mg |
13,200mg 1日あたり73mg |
70kg 70 | 8,400mg 1日あたり47mg |
15,400mg 1日あたり86mg |
80kg 80 | 9,600mg 1日あたり53mg |
17,600mg 1日あたり98mg |
- 必要累積用量 = 体重(kg) × 累積用量(mg/kg)
- 1日の必要用量 = 必要累積用量 ÷ 180日(6ヶ月を約180日として計算)
- 実際の処方期間と用量は、重症度・治療反応性・副作用に応じて医師が調整します
累積用量(累積投与量)をクリアしても再発する?
イソトレチノインの累積用量を達成しても再発する可能性はあります。近年の研究では、この「固定的な累積用量」の考え方に疑問が投げかけられています。
カナダの皮膚科医Jerry Tan氏らの2015年の系統的レビューでは、「120-150mg/kgという累積用量の推奨には強い科学的根拠がない」と指摘されています[4]。むしろ「数字に固執するのではなく、ニキビが消失するまで治療するという原則に従うべき」という見解も示されています[5]。
さらに、別の研究では軽度から中等度のニキビでは、より低い累積用量(平均約80mg/kg)でも、適切な維持療法を併用することで良好な長期的効果が得られたことが報告されています[6]。
当院では、これらの最新エビデンスと日本人の体質を考慮し、乾燥や肝機能検査値の変動などの副作用に配慮しながら、個々の患者さんに以下のような最適な治療計画を立てています。
- 用量を抑えて期間を延長する方法
- 治療後に低用量維持療法を取り入れる方法
- ニキビが完全に消失してから最低でも1ヶ月程度治療を継続する方法
重症度や治療反応性、副作用の出現状況に応じて、患者さん一人ひとりに合わせたアプローチで、副作用を最小限に抑えつつ最大限の効果を得られるよう努めています。
イソトレチノインの効果的な飲み方
最も効果が出るタイミング
イソトレチノインは食直後に服用するのが最も効果的です。これはなぜでしょうか?
イソトレチノインは脂溶性の薬剤であるため、食事の脂肪分と一緒に摂取することで吸収率が高まります。空腹時に服用すると効果が弱まる可能性があるので注意しましょう。
1日の服用回数
- 通常、1日1〜2回に分けて服用します
- 1日の総用量が多い場合は、朝食後と夕食後の2回に分けることで副作用リスクを軽減できます
用量調整について
当院では、患者さん一人ひとりの症状や体重、副作用の出現状況に応じて用量を調整しています。
- 重症ニキビの方には1日60mg以上を処方するケースも
- 当院で過去に処方した最大量は1日140mg
用量を増やして服用期間を長くすれば再発率は下がりますが、副作用の出現率も高まるというトレードオフがあります。最適なバランスを見つけることが大切です。
イソトレチノインの効果はいつから?服用後の経過
イソトレチノイン治療を始めてから効果が現れるまでの一般的なタイムラインは以下の通りです。
- ~1ヶ月: 一部の患者さんでは初期悪化(ニキビが一時的に増える)が見られることも
- 1~2ヶ月: 徐々に新しいニキビの発生が減少
- 3〜4ヶ月: 多くの患者さんで明らかな改善
- 5〜6ヶ月: ほとんどの患者さんで症状が大幅に改善
イソトレチノインで初期悪化が起こった際の対処等については、「イソトレチノインの好転反応はいつまで?」の記事をご覧ください。
イソトレチノイン服用中の注意点
副作用への対応
イソトレチノインには以下のような副作用が見られることがあります。
- 唇や皮膚の乾燥(最も一般的)
- 目の乾燥
- 頭痛
- 血液検査値の変動
これらの副作用の多くは保湿剤の使用などで対処可能です。服用中は医師の指示に従い、気になる症状があれば早めに相談しましょう。
妊娠に関する厳重な注意
イソトレチノインは胎児に重大な影響を与える恐れがあるため、以下の点に注意が必要です。
- 妊娠中の方や妊娠の可能性がある方には絶対に処方できません
- 治療中および治療終了後1ヶ月間は確実な避妊が必要です
定期的な検査
肝機能や脂質値などをモニタリングするため、治療中は定期的な血液検査が必要です。医師の指示に従って検査を受けましょう。
肌のクリニックのイソトレチノイン治療の特徴
当院では重症ニキビの患者さんが多く来院されるため、個々の症例に合わせた治療計画を立てています。再発率を最小限に抑えるため、以下のポイントに注意しています。
- 最適な累積用量の設定: 体重に応じた適切な累積用量を目標に設定
- 副作用のモニタリング: 定期的な診察と検査で副作用を早期に発見し対処
- 服用方法の指導: 食事との関係や服用タイミングの重要性を丁寧に説明
- アフターケア: 治療終了後も定期的な経過観察で再発を予防
当院でのイソトレチノイン治療に関心をお持ちの方は、下記リンクから詳細をご確認いただけます。
イソトレチノイン治療の費用はいくら?
イソトレチノイン治療を検討される際に、気になるのが費用面です。当院での治療費は以下の通りです。
用量 | 薬剤価格(税込) |
---|---|
イソトレチノイン 10mg | 30日分 7,920円 |
イソトレチノイン 20mg | 30日分 9,900円 |
※別途診察料・検査料がかかります
※重症度や体重により処方量・期間が変わるため、詳しくは診察時にご相談ください。
ご相談・ご予約
当院では一人ひとりの症状や体質に合わせた治療計画を提案しています。重症ニキビでお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。早期治療が美しい肌への近道です。また、ニキビやイソトレチノイン治療についてのご質問がございましたら、お気軽に当院までお問い合わせください。経験豊富な医師が丁寧にご説明いたします。
参考文献・サイト一覧
- Paichitrojjana A, Paichitrojjana A. Oral Isotretinoin and Its Uses in Dermatology: A Review. Drug Des Devel Ther. 2023 Aug 25;17:2573-2591. doi: 10.2147/DDDT.S427530. PMID: 37649956; PMCID: PMC10464604.
- Costa CS, Bagatin E, Martimbianco ALC, da Silva EM, Lúcio MM, Magin P, Riera R. Oral isotretinoin for acne. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Nov 24;11(11):CD009435. doi: 10.1002/14651858.CD009435.pub2. PMID: 30484286; PMCID: PMC6383843.
- Dessinioti C, Zouboulis CC, Bettoli V, Rigopoulos D. Comparison of guidelines and consensus articles on the management of patients with acne with oral isotretinoin. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2020 Oct;34(10):2229-2240. doi: 10.1111/jdv.16430. Epub 2020 May 14. PMID: 32277497.
- Layton AM, (1993) “Isotretinoin for acne vulgaris–10 years later: a safe and successful treatment.” Br J Dermatol. 1993 Sep;129(3):292-6. PMID: 8286227
- Blasiak RC, (2013) “High-dose isotretinoin treatment and the rate of retrial, relapse, and adverse effects in patients with acne vulgaris.” JAMA Dermatol. 2013 Dec;149(12):1392-8. doi: 10.1001/jamadermatol.2013.6746. PMID: 24173086
- Tan TH, Hallett R, Yesudian PD. Efficacy and relapse rates of different Isotretinoin dosages in treating acne vulgaris: systemic review. Clin Med (Lond). 2016 Jun 1;16 Suppl 3(Suppl 3):s34. doi: 10.7861/clinmedicine.16-3-s34. PMID: 27252338; PMCID: PMC4989953.
- Tan J, Knezevic S, Boyal S, Waterman B, Janik T. Evaluation of Evidence for Acne Remission With Oral Isotretinoin Cumulative Dosing of 120-150 mg/kg. J Cutan Med Surg. 2016 Jan;20(1):13-20. doi: 10.1177/1203475415595776. Epub 2015 Jul 17. PMID: 26187395.
- Louise Gagnon. Cumulative dosing of isotretinoin should not follow strict range Dermatology TIMES, October 24, 2016
- Borghi A, Mantovani L, Minghetti S, Giari S, Virgili A, Bettoli V. Low-cumulative dose isotretinoin treatment in mild-to-moderate acne: efficacy in achieving stable remission. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2011 Sep;25(9):1094-8. doi: 10.1111/j.1468-3083.2010.03933.x. Epub 2010 Dec 29. PMID: 21198947.