シミの形成過程は、分子病態学的、遺伝学的に非常に奥が深く、まだ解明されていない点も多数あります。今回は、一般の方向けに概要のみをわかりやすく解説します。
メラニンはどこで作られるの?
メラニン色素がシミの原因であることを知っている人は多いと思います。それでは、そのメラニンはどこで作られるのでしょうか?
表皮は「角質層(かくしつそう」、「顆粒層(かりゅうそう」、「有棘層(ゆうきょくそう)」、「基底層(きていそう)」の4つに分かれていますが、一番下の基底層に「メラノサイト」と言う細胞があります。
メラニンは、このメラノサイトが作り出す「メラノソーム」の中で作られます。
メラノサイトは、木の枝のような樹状突起を表皮の角化細胞「ケラチノサイト」に伸ばしています。
この樹状突起を介して、周囲のケラチノサイトにメラノソームを送り届けています。
メラノソーム– Melanosome –
メラノソームとは、メラニン色素を形成・貯蔵・輸送する細胞内小器官(オルガネラ)です。前述したようにメラノサイトで作られます。
メラノサイトからケラチノサイトに受け渡されたメラノソームは、細胞核の上部を覆いメラニンキャップ(核帽)を形成します。
核の上にメラノソームが分布することで、有害な紫外線から核のDNA損傷を防ぐ働きがあります。
ケラチノサイトは、基底層で生まれてから有棘層→顆粒層→角質層と形を変えながら上に押し上げられ、やがて剥がれ落ちます(肌のターンオーバー)。
正常な肌の場合、図の矢印のようにメラノソームも消化・代謝され、徐々に細かいメラニン顆粒となって代謝・分解されていき、角質層で消失します。
お肌を守る「メラニンキャップ」
細胞の核の中には、DNAやRNAといった遺伝情報が詰まっています。メラノソームはケラチノサイトの核の上に集まり、まるで日除け帽のようにメラニンキャップを形成します。
つまり、メラニンキャップは紫外線から大切な核を保護することによって細胞を守り、皮膚老化を防ぐ「天然の日焼け止め」です。
メラニンキャップは、肌の色調を濃くします。そのため、色黒の人ほど日焼けに強くなります。逆に、色白の人はメラニン生成能力が低く、メラニンキャップが少ないため、日ごろから日焼けに十分注意してください。
シミができる機序– Age Spots Mechanism –
通常、メラニンをたくさん含んだメラノソームは、ターンオーバーと並行して消化、分解されて消えます。
しかし、図のようにメラノソームが分解されず、表皮内に残ってしまうとシミ(日光黒子 / 老人性色素斑)が形成されます。
メラノソームが分解されずに残ってしまう原因として、ターンオーバーの遅延が挙げられますが、これは一部の要因に過ぎません。
シミができるメカニズムは、表皮のケラチノサイトやその奥の真皮の線維芽細胞が分泌する様々なパラクリン因子やサイトカイン、それらに調節されて起こるメラノサイトの異常などが複合的に絡み合っています。
化粧品でシミが消えない理由
シミ(老人性色素斑)ができる機序がわかれば、なぜ化粧品でシミを消すことができないか理解できます。
表皮の一番上の角質層は、様々な物質が奥に浸透するのを妨げて肌を守っているため、肌のバリア機能の要です。
化粧品の成分は角質層に遮られ、その奥まで浸透しません。シミの原因であるメラノソームはさらに深い部分に存在するため、化粧品でシミを消すことはできません。
ちなみに、化粧品成分の中でも、例えばレチノールやビタミンC誘導体など、角層を超えてさらに奥に浸透する成分があります。
しかし、メラノソームを分解するような強い作用を持つ成分はありませんから、実際の臨床では、化粧品のシミに対する効果はほとんどないと言えます。ピーリングも同様です。
皮膚科では、レチノールの数十倍の強力な作用を持つトレチノイン(医薬品)とメラニンを強力に抑制するハイドロキノン(化粧品)を組み合わせた治療も行われますが、やはり濃いシミには有効性は低く、再発率も高いため、レーザーに置き換わっています。
レーザーでシミが消える理由
レーザーの深達度は波長や出力によって異なりますが、基本的には表皮のすべての層まで届きます。そのため、シミの原因である深い層のメラノソームを破壊・分解することが可能です。
通常のシミは、1回のレーザー照射で除去されます。ケシミンなどのシミが消えない美白化粧品を長年使っている方は、レーザーの効果に驚かれる方も少なくありません。
ただし、薄いシミには反応しにくく、濃いシミには複数回の照射が必要になることもあります。
濃いシミでは、メラノソームが豊富な細胞が何層も重なっています。レーザーエネルギーが浅い層のメラニンに吸収されるので、奥にいくほどエネルギーが減衰していきます。1回目の照射で浅い層のメラニンを壊し、4ヵ月以上間隔を空け、2回目の照射で深い層のメラニンを壊します。
レーザーでシミを取っても再発するリスクはあり、5年以上再発しない方もいれば、稀に1~2年で再発してしまうケースもあります。
レーザーで破壊するのは、メラノソームが過剰なケラチノサイトです。メラニンを産生する基底膜の「メラノサイト」は破壊できないため、メラニンの産生がストップされるわけではありません。
紫外線や加齢による皮膚老化によって、少しずつメラノソームが蓄積してくると、いずれシミは再発しますので、定期的にレーザーで除去する必要があります。
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