今回の記事は、医療脱毛の導入を検討している一般皮膚科の医師や、これから美容業界に参入しようとしている方に向けて書いています。
「医療脱毛ってどうなの?」とよく聞かれますが、正直なところ、医療脱毛市場は今や「脱毛バトルロイヤル」状態。都心部を歩けば、あちらこちらに医療脱毛の看板。まさにレッドオーシャンです。
だからといって諦める必要はありません。今回は、そんな厳しい市場でも成功をつかむためのヒントや、脱毛機器に関する私の経験を基に、本音を語ります。
医療脱毛機器の選び方 – 一筋縄ではいかない?!
当院では、スプレンダーXをメイン機器として、ライトシェアデュエットとクラリティも使用しています。これに加えて、蓄熱式のメディオスターやソプラノ、ジェントルマックス、ベクタス、医療用IPL脱毛器など、多数の機器をテストしたり、実際に施術を受けたりしてきました。
SNSやネットでは「この機種が最強!」という議論が飛び交っていますが、実際のところ、どの機種も正しく使えばそれなりに結果が出ます(もちろん、信頼性の高い医療用機器に限ります)。ですから、機種の選定以上に、施術者の技術や患者さんのスキントーンや肌の状態に合わせたパラメーター設定が重要です。
大口径レーザー – 「大は小を兼ねる」って本当?
「大口径がいい」という意見には、一理あります。照射面積が大きければ施術時間が短縮され、毛根にしっかりとエネルギーが届くため、効率が向上します。特に全身脱毛の場合、施術時間が大幅に短縮されるのは大きなメリットです。
現在、大口径のレーザー機器(ショット式)として人気なのは次の機種です。
機種 | 口径 | 照射面積 |
---|---|---|
ジェントルマックスプロ | 24mm 円形 | 4.5㎠ |
ジェントルマックスプロplus | 26mm 円形 | 5.3㎠ |
スプレンダーX | 27mm 正方形 | 7.3㎠ |
スプレンダーXは、照射エリアが四角形であるため、円形ハンドピースと比較すると照射漏れリスクが少なく、面積の広さでも優位です。
しかし、大口径がすべての答えかというと、そうではありません。ベクタス(8.7㎠)やライトシェアデュエット(7.7㎠)も大口径機種としてありますが、ベクタスはヘッドが重く、ライトシェアは吸引タイプであるため、施術者にとっての負担が大きいのが難点です。また、大口径の機器は高額なため、導入後のコストや需要も慎重に考慮する必要があります。
スプレンダーXのデメリット – 素晴らしいけれど…
スプレンダーXは非常に優れた脱毛機器で、当院でも長年にわたって使用しています。照射範囲が四角形という点が画期的で、施術漏れリスクが少なく、施術者の負担を軽減する設計になっています。ただし、どんなに優れた機器にもデメリットがあるように、スプレンダーXにもいくつか注意すべき点があります。
実は当院は、スプレンダーXの技術指導を行っているクリニックでもあります。たとえば、看護師の技術指導用のビデオ撮影は当院で行われました。また、広報インフルエンサー向けの照射デモンストレーションなど、メーカーから依頼があれば脱毛費用(実費)のみで協力しています。
こういった広報協力は無償で行っているため、今回は忖度なく、スプレンダーXの実際に使ってみて感じたデメリットを率直にお伝えしようと思います。
1.アレキサンドライトレーザーとヤグレーザーの単独使用ができない
スプレンダーXは、アレキサンドライトレーザーとヤグレーザー両方の波長を組み合わせた出力設定になっているため、片方を単独で使うことができません。そのため、せっかく高出力のロングパルスNdレーザーを搭載しているにもかかわらず、血管治療には向かないという弱点があります。
また、アレキサンドライト単独での照射が効果的な場合に、ヤグレーザーが混ざってしまうことや、単一波長の割合だけ多くすると出力制限がかかり、特定の状況下の脱毛では、臨床効果に影響を及ぼす可能性があります。
2.高額なランニングコストに注意
スプレンダーXの最大のデメリットは、そのメンテナンス費用の高さです。当院では、わずか3年半の間に、導入した3台のうち2台のリゾネーター(レーザーの核となる心臓部)が故障し、修理費用は1台あたりおおよそ450万円、合計で900万円もかかる見積もりでした。それに加え、高額なフラッシュランプやレンズの交換も定期的に必要で、その他の細かい修理を合わせると、毎年相当な出費を覚悟しなければなりません。
もちろん、メンテナンス費用をカバーするためのフルメンテナンスパックに加入すれば、修理費用の大部分は軽減されます。しかし、患者数が減少しても高額なメンテナンス費用を払い続ける必要があり、万が一クリニックの経営がうまくいかなかった場合、さらには経営が軌道に乗った後に患者数が減ってしまった場合にも大きなリスクを抱えることになります。
ちなみに、当医療法人では14台のレーザー治療器を運用していますが、過去にリゾネーターが故障したのはスプレンダーXだけです。最初の1台目は、購入してからわずか1年半で故障しました。保証期間は1年だったため、当然保証は使えませんでした。
リゾネーターの故障なんて前例がなかったため、メーカーに問い合わせたところ、「滅多にないこと」との回答。運が悪かったのだろうと修理を依頼しましたが、その2年後、さらにもう1台が故障。3台中2台が数年で壊れたことで、さすがに「この機械、構造に問題があるんじゃないか?」と疑わざるを得ませんでした。
このように、高額な維持費をしっかりと計算に入れずに収益計画を立てると、大変なことになりかねません。導入を検討する際は、維持費を十分に考慮した上で運用計画を立てることが肝心です。
医療脱毛、やるなら経営も慎重に!
最後に、ちょっと経営面のお話を少し。もし「医療脱毛一本でクリニックを始めたい!」なんて思っているなら、ちょっと立ち止まって再考してください。
まず、医療脱毛機器の初期費用はかなり高額ですし、メンテナンス費用だってバカになりません。すでに導入済みで減価償却も終わっているなら、安心して進められますが、これから新規導入を考えているなら要注意。大手クリニックのようにスケールメリットでコストを抑えるのは、個人クリニックにはちょっと難しい現実が待っています。
そして、最も重要なのは看護師の確保です。脱毛施術は体力的にも精神的にも負担が大きく、労働環境が整っていなければ、すぐにスタッフが辞めてしまうリスクがあります。特に、脱毛効率が悪かったり、ヘッドが重い機種を導入すると、看護師の疲労が一気に増すので、機器選びには十分な注意が必要です。
ちなみに、当院では看護師1人あたり1日の全身脱毛施術を2件までに制限しています。これ以上になると、体力的にきつくなり、質の高いサービスを提供するのが難しくなるんです。対して、脱毛専門クリニックでは1人で1日に8件も全身脱毛をこなすことがあるそうで、これはまさに体力勝負!若さと根性が求められる仕事と言っても過言ではありません。
また、脱毛専門クリニックでは「スピード」が何よりも重視されます。痛みの少ない蓄熱式レーザーを使って、全身を50分以内でさっと施術するのが基本です。このスピード重視の世界では、しっかりとした計画や機種選定が成功のカギとなります。(ちなみに当院では、ショット式のスプレンダーXを使用して、全身脱毛に2時間枠を設けていますが、小柄の方の場合は1時間程度で終わることもあります。)
機器を選ぶ際には、可能であれば業者から機器を借りて、できるだけ多くの機種を試してみてください。1回の施術では効果がわかりにくいこともあるので、導入済みのクリニックで患者として施術を受けるのも一つの方法です。もちろん、購入後の保証内容や故障率、メンテナンス費用も重要です。よくあることですが、業者が出してくる計画書は現実とは異なるので、自分でしっかり計算し、「こんなはずじゃなかった…」と後悔しないように準備をしましょう。
医療脱毛の導入は一見簡単そうに見えますが、実は多くの課題が潜んでいます。機器選びからコスト管理、スタッフケアまで考えることは山ほどあります。レッドオーシャン化した医療脱毛業界は、エステ脱毛のように閉院、倒産が今後増える可能性があります。でも、しっかりとした施術と効果を提供できれば、競争の激しい市場でも成功を収めることが可能です。市場が飽和している今だからこそ、自分のクリニックに合ったやり方で差別化し、質の高いサービスを提供することが成功のカギとなります。