硬毛化とはParadoxical Hypertrichosis
「せっかく脱毛施術を受けたのに、逆に毛が濃くなってしまった」ということはありませんか?
光脱毛やレーザー脱毛によって、逆に毛が太く濃くなる現象を硬毛化(こうもうか, Paradoxical Hypertrichosis, 逆説的多毛症)と呼びます。
医療脱毛だけでなく、エステ脱毛、家庭用脱毛器など、光源を用いたすべての機器で硬毛化のリスクがあります。
脱毛後に毛の密度が高くなる、毛の色が濃くなる、太くなる現象が起こり、他に多毛症の原因がない場合には、硬毛化を疑う必要があります。
硬毛化の原因
レーザー脱毛前には産毛(vellus hair)であった領域に、硬く太い毛(terminal hair)が生えてくるのはなぜでしょうか?硬毛化の原因は、明確に解明されていませんが、病因学的にいくつかの報告がなされています。
レーザーによる一過性の炎症は、プロスタグランジンやチモシンb4などの炎症性メディエーターを介して毛組織に特異的に作用し、発毛作用を促すことが報告されています。これは、緑内障の目薬「ルミガン」でまつ毛が伸びることや、AGA治療薬「ミノキシジル」で頭髪が成長するメカニズムとも関連しています。
レーザーの熱による毛乳頭の炎症は、毛包に血流と成長因子の増加を引きおこすことや、ヒートショックプロテインを産生させ、毛包幹細胞の分化と成長を誘導する可能性があります。
産毛が硬毛化しやすい理由
レーザーは黒い色素であるメラニンに反応します。メラニンは、レーザー光を吸収する能力が非常に高いため、レーザーが当たった部位にあるメラニンは熱を発生させます。この熱は、毛根周囲の組織(毛包)を傷つけ、その結果、毛が成長するのを阻害します。つまり、レーザーはメラニンに集中的に作用し、毛を生えにくくします。
このため、レーザー脱毛は毛が濃い人(毛にメラニンが多く含まれている人)に対して特に効果的です。
一方で、産毛のように毛が薄く、メラニン色素が少ない場合、効果が低くなります。レーザーで毛包を破壊するほどの熱エネルギーが伝わらず、逆に硬毛化するリスクがあります。
周囲の毛の硬毛化
成長期の毛は太い毛が生えているため、レーザーの効果がでやすいのですが、その周囲にある休止期の毛包にも熱エネルギーが伝わり、周囲の毛が硬毛化する可能性も指摘されています。
硬毛化の発生頻度
医療脱毛後の硬毛化の発生頻度は、いくつかの研究で0.6~10.49%と報告されており、かなりの幅があります。これは主に海外からの報告で、人種(主に白人)における研究であったり、症例数が少ないといったバイアスがあることにも起因しています。
アメリカレーザー医学会の年次大会で発表された500人以上の女性を対象に脱毛を行った臨床データでは、約10%の患者で硬毛化が起こったことが報告されています。また、皮膚の色調が濃い日本人(フィッツパトリックスキンタイプⅢ~Ⅳ)の場合、さらに発生頻度が高くなる傾向があり、硬毛化の発生頻度は、これまで報告されてきたものよりはるかに多い可能性があります。
硬毛化が起こりやすい部位
硬毛化は、産毛が存在する部位であればどこでも起こります。
当院の知見では、硬毛化現象は皮膚の伸縮が起こりやすいエリアに多く、主に観察される部位は下記です。
女性では、口周り、首、フェイスライン(もみあげ~顎)のエリアが、硬毛化が起こりやすい部位です。
男性では、胸、背中、肩~上腕のエリアが、硬毛化が起こりやすい部位です。
硬毛化になりやすい人
硬毛化は体質的な要因が大きく、原因が不明で誰にでも起こる可能性があります。女性で報告が多いものの、これはサンプリングの問題であり、当院の知見では男性の割合が多くなっています。
特に硬毛化リスクが高いケースは下記の通りです。
硬毛化を生じやすい人
- 毛が太く濃い(ベースが毛深い)
- 肌の色調が暗い(色が黒い、フィッツパトリックスキンタイプⅢ~Ⅵ)
- ホルモン異常をきたす疾患(多嚢胞性卵巣症候群、クッシング症候群、アンドロゲン分泌腫瘍、副腎過形成等)
- ステロイド(コルチコステロイド、アナボリックステロイド、男性ホルモン等)の使用
- ミノキシジル(発毛薬/AGA治療薬)の使用
硬毛化が起こりやすい脱毛器
レーザーの種類や機種の違いによって、硬毛化が起こりやすい脱毛器、逆に硬毛化が起こりにくい脱毛器はあるのでしょうか?
硬毛化の報告は、光脱毛器とアレキサンドライトレーザー脱毛器で最も多く、次いで、ダイオードレーザー、最も少ないものはYAG(ヤグ)レーザーの順となっています。
しかし、一概に光やアレキサンドライトレーザーの硬毛化リスクが高く、YAGレーザーの硬毛化リスクが低いとは言えません。
最も効率的に脱毛ができるアレキサンドライトレーザーは、医療脱毛の中で最も使用頻度が高く、光脱毛はエステで行われているため、受ける人が多いことで、硬毛化の報告も比例して多くなります。
YAGレーザーは、女性や色白の男性への使用頻度は少なく、医療脱毛全体でもアレキやダイオードに比較してサンプル数が少ないため、硬毛化の報告も少なくなっています。
肌のクリニックでは、YAGとアレキの両波長が同時に出る機種(スプレンダーX)や、切替ができる機種(クラリティツイン)を扱っていますが、YAGとアレキで硬毛化のリスクはほぼ変わりません。
蓄熱式で硬毛化の報告が少ないのは、その特性から毛深い人(硬毛化リスクが高い人)の脱毛には適さないことに起因している可能性があります。実際には、蓄熱式で硬毛化が起こったケースも多々診療しています。
各レーザーを使用した脱毛器の機種名は、下記のページをご参照ください。
硬毛化の治療
硬毛化は、自然経過で改善することが報告されています。毛が生えて抜け落ちる毛周期(ヘアサイクル)が、何度も繰り返されると硬毛化した毛が、徐々に元の産毛に戻っていくためです。
しかし、硬毛化が自然に改善するまで、数年から10年程度の期間がかかる可能性を考えると、ただ待つだけという選択はあまりお勧めしません。
ここでは、脱毛で硬毛化した場合に、どのような治療方法があるのかを記載していきます。
1. 針脱毛(ニードル脱毛)
硬毛化した毛に最も効果的な治療は針脱毛です。毛穴に細い針を刺し、針の先から電気を流して毛根を破壊します。
ほとんどの毛は1回の施術で生えなくなり、確実に効果がある反面、1本ずつ処理していくため時間がかかることや、痛みがあることがデメリットです。
硬毛化した毛が数千本以下なら、針脱毛が最も早く効率的に脱毛できます。
2. 出力を上げて脱毛を続ける
硬毛化した場合でも、レーザー脱毛を続けていくと改善するケースは多々見られます。硬毛化した毛はメラミンを多く含むようになり、レーザー光を多く吸収するため、脱毛効果が高くなるためです。また、脱毛効果を上げるため、徐々に出力を上げることも重要です。
その一方で、20回以上の照射を続けても、硬毛化が改善しないケースも存在します。毛包幹細胞の分化と成長が活性化し、毛包を破壊するレーザーの熱エネルギーが足りないためと考えられるため、改善の兆しが見えない場合、別の方法を模索する必要があります。
時々「硬毛化保証」を謳って、「硬毛化が起こったら無料で数回照射をします」という医療機関もありますが、正直、同じ出力と波長で照射を続けて対処しても、ほとんど改善しないのが実情です。
また、出力を上げれば火傷や火傷跡が残るリスクが高まることにも注意が必要です。
3. 波長の変更
アレキサンドライトレーザーで硬毛化が起こった場合には、ダイオードレーザーやYAGレーザーへ変更するなど、異なる波長のレーザーで脱毛を行うことをお勧めします。
種類 | 波長 nm | メラニン吸光度 |
---|---|---|
アレキサンドライトレーザー | 755 | 高 |
ダイオードレーザー | 800 | 高 |
YAGレーザー | 1064 | 中 |
レーザー光は、波長は長いほうが到達深度が深くなるという性質があります。つまり、深くレーザーが届く順にYAG>ダイオード>アレキサンドライトとなります。
毛が皮膚の深い位置にあり、アレキサンドライトレーザーで毛包に熱エネルギーが十分伝わらない場合には、YAGレーザーへ変更することで、毛包や毛根に十分に熱エネルギーが伝わり、破壊できる可能性があります。
メラニン吸光度(メラニンに対する反応)はアレキサンドライト>ダイオード>YAGの順ですから、毛根が浅い位置にあったり、メラニン色素が比較的少ない毛の場合、YAGレーザーでは効果が不十分です。アレキサンドライトレーザーやダイオードレーザーへ変更することで、効率よく硬毛化を処理できる可能性があります。
4. 長い施術間隔
髪の毛は成長期の期間が長く、毛周期は2~8年に及びますが、体の毛の毛周期は、数ヶ月~1年程度です。
数ヶ月から1年以上の期間を空けて毛周期が一巡するのを待って、硬毛化した毛が抜けて新しい毛が生えてきた段階でレーザー照射を行うという方法も良くなされています。
つまり、一度リセットした状態で再度脱毛を行う形になるため、出力を変更したり、波長の異なるレーザーを使用して毛包にしっかりと熱エネルギーが伝わるように工夫する必要があります。
5. 短い施術間隔
前述の「4.長い施術間隔」と照射の頻度が逆になりますが、オランダで行われたIPL脱毛(光脱毛)の研究によると、硬毛化が起こるケースの多くは、脱毛の間隔を8週間以上空けた患者でした。
つまり、2ヵ月以上間隔をあけると硬毛化のリスクが高くなる可能性が示唆されており、逆に、約4週間の短い間隔で脱毛を行うことで、硬毛化を防ぐことができるかもしれません。
短い施術間隔での脱毛効果は?
短い期間で頻繁に脱毛を行う場合、成長期の毛がまだ生えそろっていない可能性があり、脱毛の効果が下がる可能性がありますので、注意が必要です。
当院では通常、毛周期が短いヒゲの場合は1ヵ月ごと、毛周期が長い体毛の場合は、毛が多い時期は1ヵ月ごと、毛が少なくなった段階で毛が生えそろうまで2ヵ月以上の間隔を取ることをおすすめしています。
ただし、毛周期が2年以上と長いVIO脱毛の研究報告(米国のアレキサンドライトレーザー)によると、11人の患者が3週間の間隔で5回の治療を受け、1年後に平均して毛の78%の減少が認められたと報告されています。
毛周期の長いVIOにおいて、短い脱毛間隔が有効であることを考えると、一般的に推奨される治療間隔よりも短い間隔でも効果的に脱毛ができる可能性があります。
6. ダブルパス法
2年間にわたり200人以上の患者に対して、レーザー照射から1分後に出力を変えて再度照射を行う「ダブルパス法」を実施し、その結果、以前は10%の脱毛患者に見られていた硬毛化がゼロになったという報告があります。
ただし、ダブルパス法は硬毛化が起こる前の段階での施術方法であり、硬毛化が起こった後に改善できるかの研究報告はありません。
そこで、当院では、硬毛化がすでに発生した方々に対してダブルパス法での治療を行いました。その結果については、下記の記事をご参照ください。
また、脱毛器「ライトシェア」には、2連続で照射が行われるモードが備わっています。前記のダブルパス法とは異なりますが、2連続照射モードでも硬毛化が少なくなったという報告もあり、時間も通常の単回照射とほとんど変わらないため、全身脱毛をライトシェアでご希望される方へは、2連続照射モードでの脱毛も提供可能です。
ダブルパス法やライトシェアの2連続照射についての詳細やご質問がありましたら、お気軽に医師や看護師にご相談ください。
7. 冷却(クーリング)
ここで言う冷却は、脱毛後の皮膚の火傷予防の冷却ではありません。脱毛前に保冷剤(アイスパック)で冷却を行った上で照射することで、成長期以外の毛包や周囲の毛包へ作用する熱が抑えられ、硬毛化のリスクを減らせる可能性が報告されています。
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